始まり

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始まり

 キーリングルの北に位置するハーメット────  そこにはキーリングルが建国された当初から守護女神ハーミアを祀る古い神殿がある。神殿に仕える巫女たちはいずれも美しいが、中でも一際美しい娘がアリアーネという名の王女であった。  輝かしい黄金色の髪にサファイヤを思わす青い瞳。乳白色の肌は絹のように滑らかで、ほっそりとした首筋はまるで白鳥を思わせる。緩やかな襞のある巫女の衣をまとった姿は女神のように気高くて、神々しくさえある。身を浄めるため、泉へと向かう彼女に付き従うお付きの者たちでさえ、毎回目にする度にほうっと感嘆のため息を漏らすほどだ。  アリアーネは十六歳だが、人生の大半をこのハーメットの神殿で過ごしてきた。彼女が生まれた時に、とある神託が下されたせいで家族とも華やかな王宮での暮らしとも縁のない日々を送ることになったのだが、アリアーネ本人はそのことを少しも嘆いてはいない。彼女は神殿での静かな生活にすっかり馴染んでいたし、満足してもいた。他の人生など考えられないほど、祈りと静寂な日々はアリアーネの性に合っていたのである。
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