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明けの物語
生まれた瞬間から物語と共にある。
両親からの贈り物はいつも本。
クオイの住む国は本の中にしか存在せず、現実には存在しない架空の国だ。だから国の名を教えても、夢のように忘れられてゆく。だから誰かに告げる事はない。
いつしかどうせ零れ落ちてゆくのだから、そんな事は無意味だと思うようになった。
だから今では今いる“暁の国”と名乗るようになった。実際住んでいるし世話になっているのだから、間違ってはいないはずだ。
今日もスケッチブックを広げ、サラサラと空想の世界を描く。両親は世間では有名な文学作家だが、クオイは絵本作家になった。きっかけはなんだっただろうか。記憶の片隅に置き忘れてしまうくらい、特別な理意味なんてないのだろう。
クオイは大きな欠伸をする。昨日も遅くまで、物語にどっぷり浸かっていた。夜明けまで読むのも日常茶飯事だ。お酒と物語は、この世で一番楽しい娯楽かもしれない。
暇をやり過ごすのも本で、日頃から活字中毒になってしまっている。城の図書館にある物語もすべて読破し、親友でもある若き王のルシュラにしつこいくらい頼み込んで、新しい物語を自由に取り寄せてもいい許可まで得た。
それはもう子供のように駄々をこねたら、呆れ果てられたが。
クオイの自室には大きな本棚が二つ並んでいる。買い集めた本たちは、何物にも変えられない宝物だ。それは自分の命と天秤にかけても、だ。命以上の存在なんて、この先も永遠にできないだろうって思っていた。
思っていたのだが――こんこんと控えめに扉を叩く音がする。
きっとそう、彼女だ。
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