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 祠の格子戸を拭いていると、どこからかかすかな鈴の音がきこえてきた。ノブヤがその音におもわず、ゾッとした感じを覚えたのは、神社の藪の暗闇から火のように目を光らせて出てきた、トカゲをくわえた猫を思い出したからである。  音のするほうへ庭の木立ちを回って行くと、鞠子が薔薇の植え込みの手入れをしていた。鈴の音は、彼女が持ったハサミに付いた小さな鈴からきこえていた。  鞠子は薔薇の木の繁りにハサミを入れていたが、それは花にもっと日差しが当たるよう古い葉を切り落としているのだった。花の上にかぶさった古い葉はあきらかに邪魔である。  軽快な鈴の音を立てながらハサミを使っている鞠子は、薔薇の花の照り返しを浴びてかがやき、貞義老人に仕えていたときの鞠子とは、まるでちがってみえた。 終わり。
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