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火球が浮かんでいるのは丁度田辺家の上だった。焼き尽くされる前になんとかしなければならない。神社にとって氏子の家は飯の種である。
限界までエンジンを噴かすと、丘の上から火球へ向かって大きくジャンプした。無謀である。が、火球にぶつかってもバイクは燃え尽きなかった。なかは火炎が渦巻いていた。
どうやら隕石ではなく悪霊の類だったようである。そもそも隕石なら空中に浮かんでいることはない。
いきなり突入してきたバイクに驚いて、火球はいく筋もの火炎の腕をのばしてノブヤを襲ってきた。が、ノブヤが太古の神々に祈ると、炎の腕はたちまち火の粉になって次々に破れていった。
ノブヤは社会人としては半人前だが、神主としては一人前の力を持っていた。苦しみだした火球は、残った炎をあつめて外へのばした。ノブヤが火球の熱気を通して見ると、炎を巻いたうでが、庭に逃げ出していたらしい寝間着の貞義老人をつかまえようとしていた。が、ノブヤの祈祷の力でそれもかなわず、固く巻いた綱がほどけるようにして消えていった。
火球は冷たい風となり、ひとしきりノブヤをうらむようなうなり声を立てていたが、まもなく夜空へかえって行った。
そのあと、パトカーに先導されて消防車が何台もやってきたが、そのときには消火する相手の火球は無くなっていて、ただいたずらにサイレンを鳴らすだけだった。
それから数日後、ノブヤはまた田辺家を訪れていた。入院中の貞義老人から祠の管理をたのまれたのだ。たいした怪我もなかったようだが、ここは安全だから死ぬまでに入院させてもらう、ということだった。あれだけ怖い目にあったのだ、それもしかたあるまい。
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