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「ご、ごめんね、お父さんもちょっと暑苦しくて……」
靴を脱ぎながらこっそり謝ると、青瀬君が渇いた笑いを漏らした。
「あー、いえ。殴られずに済んだんで良かったです」
「そ、そう? 殴ったりなんかしないよ? あ、そうだ。お庭に出るから靴持ってきた方が良いかも」
私の家のお庭は中庭に近い形をしているから、一度家の中に上がらなきゃいけないのだ。靴を手にした私たちは、お父さんとお兄ちゃんのボディビル大会の賞状がずらりと飾られている廊下を歩く。
「にしても凄いですね。バーベキュー出来るくらいの庭があるって事ですよね?」
「そんなに広くはないんだけどねえ」
「いやいや、そもそも庭があるだけで十分で……す……」
中庭に面した硝子窓に差し掛かった時、隣に居たはずの青瀬君が、突如フェードアウトした。
「んっ? あれ? 青瀬君?」
「……なんですか、あの生贄みたいなやつ」
生贄? 唖然と中庭を見つめている青瀬君の視線を追って、私も中庭に目を向ける。
「え? あ、仔豚の丸焼きのこと?」
すっかりバーべキュー支度が完了している中庭には、テーブルセットと炭火焼き用のグリル、飲み物やお肉が入った保冷ボックス、そして本日のメインディッシュである仔豚が両手足を縛られた状態でじっくりと炙られていた。
パリパリに焼けた皮を見るに、そろそろ良い食べごろのようだ。
「あはは、確かに生贄っぽいかも……って、え!? ど、ど、どうしたの!? 気分悪い!?」
頭を押さえている項垂れている青瀬君に慌てて駆け寄る。
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