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「そういえば梁間くんは賞金何に使うの?」
「え、まあせっかくだし筆は買い替えようかと思ってるけど。他は何も決めてないや」
「そっかあ」
「仁見さんはどうするの?」
「うーん、映画でも見ようかなって」
「映画?」
意外な答えに僕が訊き返すと、彼女はひとつ頷く。
「前に話してたサスペンスドラマ、映画化するんだって。来週の土曜日公開なの」
ああ、点と点が繋がるやつ。
昔の雑談を思い返していると、彼女は不意を突くように言葉を続けた。
「もしよければ、一緒に観に行かない?」
僕は驚きのあまり言葉を失った。まさか彼女からそんなことを言われるなんて思ってもみなかったから。
それから質問をしようと僕は口を開いた。なんで僕を誘ってくれるのかとか、その映画はドラマ観てなくても理解できるのかとか。
けれど飛びだした言葉は、もっと直線的な感情を彼女へ届けた。
「レイトショーじゃなければいいよ」
彼女が美しいと思うものを見てみたい。
僕はそう思ってしまったのだ。
「え、また流星群?」
「いや今度は月食」
「空も忙しいねえ」
彼女は苦笑交じりに首を小さく振る。そして次第に、その表情を嬉しそうな笑顔に変えた。
それから少しだけ静かな時間が流れて「ねえ」と彼女は上目遣いで僕を見る。
少しだけ、潤んだ瞳。
「……それってさ、私にも見える?」
耳の先を赤らめながら照れくさそうに尋ねる彼女を見て、僕はつい笑みを零す。
「空は誰にでも平等だよ」
僕が笑うと、彼女も笑った。それだけでわかりあった気になるのはまだ早いだろうか。
決して繋がらない点と点。
色も大きさも違うそれらはただ重なるだけだったとしても。
それはそれとして、美しいのかもしれなかった。
(了)
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