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「梁間くんは少女漫画とか読む?」
「有名どころはなんとなくわかるけど、ちゃんとは読んでないな」
「まあ少年だもんね」
「それがなに?」
「恋について語ろうかと思って」
「それなら問題ない。少年も恋はする」
僕は横に立つ仁見さんのほうを向くことなく言葉を返す。気付けば窓から差す光の色が赤みを増してきていた。床に敷きつめた新聞紙は皺だらけで、目の前にそびえ立つキャンバスはもう真っ白じゃない。
「漫画の主人公って大体恋するでしょ」
「ああ確かに。もはや恋してこそ主人公みたいなところあるよな」
「別にそれ自体は良いことだと思うのよ。でもひとつ引っかかることがあって」
彼女はそこで言葉を切ってキャンバスに新しい色を乗せる。
僕はそれを見て次の色を筆で掬った。
「恋する主人公が好きな人に向かってよく言うんだよね。『わたしの世界に色を付けてくれてありがとう』って」
「聞いたことあるかも」
短く答えながら僕は筆先でキャンバスに点を描く。その横で彼女は「でもさ」と言いながら僕のとは違う色、違う大きさの点を描き加えた。
「でも色ってさ、自分でつけたほうが楽しくない?」
キャンバスの半分以上が僕たちの描いた色とりどりの点で埋められていた。点描画とはどうにも僕たちらしい。
相手の描いた答えを見て、自分の筆で答えを返す。真反対な僕たちの即興アート。
点と点は繋がって線になるなら、繋がらない点と点は何になるのか。
その答えは目の前にあった。
「みんながみんな美術部ってわけじゃないんだろ」
「ああ、そういうこと」
キャンバスの白い部分にまたひとつ自分の好きな色を乗せる。それだけで心が躍った。
僕たちはこの世界のどこにどの色を乗せるか、全部自分で決めていい。
「じゃあ私は色の塗り方を知れて幸せね」
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