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6
「私たちの世界はかくも美しいのにどうしてヒトはそれを足蹴にするのでしょう」
「環境保護活動家みたいなセリフだな」
「地球も美しいよね。芸術の次に」
「ついに母なる星にまで切っ先を向けたか」
「だって納得できないんだもん」
放課後になったばかりの美術室には僕たちだけが並んで座っていた。さっきまで松坂先生もいたのだが、コンクールの結果だけ僕たちに告げて「これからまた会議だから」と足早に部室を出ていった。
「入選じゃ納得できなかった?」
僕と仁見さんの個人作品はコンクールで入選し、今度市役所で表彰式が行われると先生は言っていた。少額ながら賞金も出るらしい。その後、僕たちの入選作品は県営の美術館に展示されるそうだ。
「そっちじゃない」
そう言って彼女は教室後方に目を遣る。『そっち』とは何のことか、僕にもわかっていた。彼女の視線の先の壁には先月まで巨大な点描画が立てかけられていたが、今は撤去され他の美術部員の作品がいくつか置かれている。
あの点描画は、今回のコンクールで何の結果も残せなかった。
「あんなに綺麗だったのに」
「題名も傑作だったのにな」
「タイトルは関係ないでしょ」
「作品に関係ないものはないだろ。まあ、仕方ないよ」
口ではそう言いながらも、僕の胸の内でも悔しさはぐるぐると渦巻いていた。
本当に傑作だったんだ。二人で描いたあの作品は本当に美しくて、誰の目をも惹きつけて魅了してしまうものだと思っていた。
しかし結果は選外。その理由は伝えられない。だから何が悪かったのか、何が足りなかったのか、僕たちにはわからない。
それでも、ひとつだけ確信があった。
「……『“好き”が溢れて、はじめて世界だ』」
「それ、先生の?」
「うん」
あの作品は間違いなく、自分たちの“好き”で溢れていた。だからこそ僕たちの目にはあんなに美しい世界が見えたんだ。
「たぶん僕たちの世界はまだ始まったばかりなんだと思う」
生まれたばかりの地球はどんな姿だっただろう。それからどれだけの時間をかけて、ここまで美しい姿に成ったのだろうか。
そんなの想像すらできない。でも、僕たちの世界だってその余地はあるはずだ。
「もっと努力して、もっと洗練させて、もっと “好き”を凝縮させてさ。そうすれば次はいけると思うんだ」
「……なんか意外。梁間くんは二度と合作なんかしたくないと思ってた」
「まあ僕も最初は向いてないなって思ってたけどね。でも、見えちゃったから」
今はまだ僕たちにしか見えていない美しい世界。
僕たちの好きなものを。
「みんなに見せつけてやりたいと思った」
壁に向けていた目を彼女に向ける。
放課後になれば他の誰より早く部室へと足を運ぶくらいに美術が好きな相方は、少しの間を空けてから口を開いた。
「……熱いなあ。もしかしてストーブから生まれたの?」
彼女はそう笑いながら「今度は大人に振り回される前に、余裕を持って動こうよ」と言った。
その目はもう後ろを向いてはいなかった。
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