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「点と点って繋がれば線になるんだってさ」
隣の机でスケッチブックに下書きをしている仁見さんは集中力が切れたのか、ページから目を離さないままに言った。
僕はキャンパスに乗せようとした筆を一度止めて、呼吸を整えてから再度静かに置いた。濃紺の線を引く。
「なにそれ星座の話?」
「いや昨日見たサスペンスで言ってたよ。てか梁間くん、あの人気ドラマ見てないの?」
「昨日は年に一度の双子座流星群が来てたからさ。そんな大事な日にテレビなんか見られない」
「なんだかんだ流星群ってよく来てる気がするけど。私の空だけかな」
「空は誰にでも平等だよ」
それを言うならドラマも録画とか再放送とかあるのでは。
僕はそう思ったが、口に出すことはしなかった。そんなことを言っても理解されないのだろうから諦めたほうがいい。
その代わりに、これだけ言っておいた。
「たぶん僕たちは線にはなれないだろうね」
「私もそう思う」
即答が返ってくる。「はじめて意見が合ったかもね」と彼女は笑った。
「私たち全然違うもんね。好きな色も食べ物も見てるものも違う。おんなじ美術部だけど、私は人物画で梁間くんは風景画だし」
「そうだね。まあでもそれでいい気もする。みんな好きなものが違うから、この世には色んなものがあるだろうし」
「わかる。わかっちゃうからますます繋がることはなさそうだよ」
相手と自分は違うことを認めていて、けれど決して擦り寄ることはしない。たとえ重なったとしても、混ざり合うことはない。
意地ではなく、自分が自分であることを正しいと思っている。
そんな僕たちが繋がるわけがなかった。
「繋がらない点と点は何になるんだろ」
「そりゃただの点と点でしょ」
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