第一話 捨てちゃえばいい

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結局その日、私の机を隠した犯人は分からなかった。先生は放課後に私を職員室に呼び出して、「まあ余計な心配はするな」と当たり障りのない励ましをしてくれた。わざわざこういうことをしてくれる先生は、なんだか熱血っぽい。そういう人は嫌いじゃなかった。 「ただいまー」 「……」 家に帰ったところで誰もいないのは分かっているのに、「ただいま」と言ってしまう。 母親は研究者。 父親は某有名商社の営業マン。 二人とも、夜遅くまで帰ってこない。 でも、寂しいっていう感情はなくて。帰ったら淡々と部屋で課題を始めるだけだ。 母も父も、いわゆる教育ママ、パパだ。 名門高校を出て一流大学に進学した二人は大学の研究室の先輩、後輩だったらしい。「努力すれば必ず報われる」と思っているうちの親は、私にもあらゆる「努力」をすることを強いてきた。 特に勉強に関しては手を抜くことを許さない。頑張ればできるのだから、頑張らないのがおかしいというのが二人の口癖だ。 あなたは私たちの娘なんだから。 やろうと思えば、なんだってできる。 努力さえ怠らなければ。 小さな頃から何度も言われ続けて、お決まりのように二人に反抗するようになった。反抗、と言っても、面と向かって彼らと喧嘩をするわけではない。「おはよう」と「おやすみ」以外、ほとんど口を利かないのだ。 それなのに、「ただいま」と口にしてしまう私は滑稽だ。
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