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「どうした、春山。席に座れ」
「あの、私の席がなくなっているんです」
みんなの視線が一斉に私に集まる。注目されることに慣れていない私は、どこに目線を合わせたらいいのか分からず、目が泳ぐのを感じた。
「本当か。誰か、春山の机に心当たりないか?」
意外だった。私は、先生が何かの作業で私の机を使ったのだと思っていたから。でも、先生は何も知らないらしい。他のクラスの先生の仕業? それもあり得るのだが、肌で違うと感じていた。
「「……」」
誰も、何も言わない。
先生は何かを悟ったのか、「ちょっと待っていなさい」と私に指示をして、教室から出て行った。
誰かが、ヒソヒソと話す声が微かに聞こえてくる。でも、あえて耳を傾けたくなくて、考え事をしようと必死に努めた。聞いてはいけない何かを、クラスメイトの誰かが話している気がするのだ。
先生は、5分ほどして教室に戻ってきた。ほんの5分間があまりにも長く、できることならこの場から消えてしまいたいとさえ思った。
「春山、ちょっといいか」
教室に戻るやいなや、先生は私を廊下に呼び出した。
クラスメイトたちが好奇の視線を浴びせてくるのを振り切って、私は応じた。先生は、私の荷物が引っかかった机を横に置いていた。この短時間でよく見つけられたものだ。
いやいや、感心してる場合じゃない。早くこの机を中に入れないと、授業が始まっちゃうわ。
急ぎたい私の心中を察してくれているのかいないのか、雪村先生は真剣な面持ちで口を開いた。
「あのな、春山の机、屋上に続く階段の踊り場に置いてあったんだが、心当たりはあるか」
「踊り場? いえ、ありません」
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