第一話 捨てちゃえばいい

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「どうした、春山(はるやま)。席に座れ」 「あの、私の席がなくなっているんです」 みんなの視線が一斉に私に集まる。注目されることに慣れていない私は、どこに目線を合わせたらいいのか分からず、目が泳ぐのを感じた。 「本当か。誰か、春山の机に心当たりないか?」 意外だった。私は、先生が何かの作業で私の机を使ったのだと思っていたから。でも、先生は何も知らないらしい。他のクラスの先生の仕業? それもあり得るのだが、肌で違うと感じていた。 「「……」」 誰も、何も言わない。 先生は何かを悟ったのか、「ちょっと待っていなさい」と私に指示をして、教室から出て行った。 誰かが、ヒソヒソと話す声が微かに聞こえてくる。でも、あえて耳を傾けたくなくて、考え事をしようと必死に努めた。聞いてはいけない何かを、クラスメイトの誰かが話している気がするのだ。 先生は、5分ほどして教室に戻ってきた。ほんの5分間があまりにも長く、できることならこの場から消えてしまいたいとさえ思った。 「春山、ちょっといいか」 教室に戻るやいなや、先生は私を廊下に呼び出した。 クラスメイトたちが好奇の視線を浴びせてくるのを振り切って、私は応じた。先生は、私の荷物が引っかかった机を横に置いていた。この短時間でよく見つけられたものだ。 いやいや、感心してる場合じゃない。早くこの机を中に入れないと、授業が始まっちゃうわ。 急ぎたい私の心中を察してくれているのかいないのか、雪村先生は真剣な面持ちで口を開いた。 「あのな、春山の机、屋上に続く階段の踊り場に置いてあったんだが、心当たりはあるか」 「踊り場? いえ、ありません」
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