プロローグ

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プロローグ

『あなたが消したいものを、入力してください』 『消したいものは、××』 『了承しました。では、明日から××が消えた世界をお楽しみください——』 ◆◇ 大人になるということは、大事なものを失ってゆくことだ。 誰だろう。私は誰からこの言葉を聞いたんだろう。昔の偉い人が言ったのか、漫画か何かの台詞で記憶に残っているだけなのか。はたまた、誰かから聞いたというのは勘違いで、ただ思春期真っ只中にいる私が、自分に酔って生み出した言葉だっただろうか。 捨てたいものなら、たくさんある。 重たい教科書。汚れた上履き。ブサイクに写った卒アルの写真。 どれも、私にとって「煩わしいもの」だ。なくなったって、これから生きてゆくのに支障はない。教科書がなければスマホで解説を読むし、上履きだって新しいものを買えばいい。卒アルは、そもそも見返す機会がない。そのくせ重たいし場所だけはとられるから、ないに越したことはない。 そう思うのに、全部捨てられない。 絶対に必要なものでもなく、かと言って今すぐにゴミ箱に捨てるにはいささか勇気が足りないのだ。
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