ゲス

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(くそっ、こんなときに!)  おれは胸のなかで毒づいた。  いま、ハンドルをしっかりとにぎり、前方を注視しながら、運転しているところだ。  そのおれの背後から、ゾワリとする、さむけのような気配が伝わってきたのだ。  この気配には、覚えがある。  悪霊(あくりょう)だ。  正体はわからないが、悪い霊が、ふいに後部座席に湧いて出てきやがったのだ。  おれ程度の、わずかばかりの霊感で、ひしひしと感じられるところから考えて、相当にたちの悪い霊だ。  もちろん、いまはうしろをふり向くことなど、できはしない。  目を皿のように大きく見開き、前を見ていなければならない。  そうしないと、命にかかわるからだ。  フロントガラスの向こうに見えるのは、まっ白の闇だ。  いわゆる、ホワイトアウト。  まわりの田んぼに降りつもった雪が、風に飛ばされて、分厚いカーテンのようになって視界をふさいでいるのだ。
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