第01話 洗脳と戦浪外交

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

第01話 洗脳と戦浪外交

 これは、現世に酷似したパラレルワールドのお話です。  中酷全国民衆代表大会(全民代)が開かれていた。演壇に立つ秀欣平国家主席は、高らかに中酷の夢を強調していた。  「わが闘争に一点の曇りもなし」  「万岁(wansuì)」  「中酷の夢は、経済成長の継続で在り、世界をひとつの中酷にすることだ」  「同意(tongyì)」  「ここに私は、提唱する。猛沢西思想、鄧大平理論、甲拓民が提唱した思想理論、虚公任が提出した科学的発展観では、世界を統治出来ない。わたしの提唱するのは、中酷の発展・成長は、新時代の中酷の特色ある強酸主義思想を愚かな世界各国に浸透させることである」  「同意(tongyì)」  「既に、先進国に浸透させた孔子学院による次世代の者への強酸主義思想への洗脳。資本主義が生み出す憎むべき貧富の差は、共存共栄の我ら思想に非ず。膨大な人口を使い膨大な輸入の餌を与え、安価な品を輸出し、外貨を稼ぐと共に、その外貨を元に奴らが育て上げた優良な企業を根こそぎ奪い取っている。奴らが誇る資本主義の弱点は人件費である。中酷は、隷属国の民を使うのでタダ同然。価格競争では絶対に負けない強さを得ている。働き手がいなければ侵略し、その民を隷従させればいい。その為の軍備増大だ。闘う物ではなく、脅すためのもの。本当の闘いは、相手陣営に浸透し、有志を確保し、内部から崩壊させるものである。そのために金が物を言う。鼻の下の長い者にはその好みの物を与えればいい。我が国の女士(Nǚshì)は、有能で美しいからな。従う者には餌を。逆らう者にはスキャンダルと言うお仕置きを課せばいい」  「クスクスクス」  場を和ませた秀欣平は、語気を強めた。    「自由など、糞くらえ。その自由とやらで、改革を鈍らせるなど中国にはない。14億人の内、富める民は2億人。その富める民を約8千人の我ら強酸党員が牛耳るからこそ、ここにいる皆が富めるのは、必然。分母を増やせば、我らの富はより豊かになる」  「万岁(Wànsuì)」  「その分母の中には、既に工作員が狩りをし、首輪をつけさせた国に影響力を持つ議員、企業の要職者も含まれている」  「万岁(Wànsuì)」  「もう中酷は、他国の顔色を視るのではなく、顔色を伺わせる立場にある。協調から攻勢の転換を充分に果たしている。強酸党主義にのみ栄光は微笑むのである」  「万岁(Wànsuì)」  中酷は、国際社会での発言権や決定権を得るために積極的に戦浪外交を展開していた。  具体的には、地理的に接していない国々に対する積極的な外交攻勢を繰り広げた。アフリカでの融資の倍増、地政学的に重要な港の長期租借など。中酷を中心とした国際協調の構築。一路一帯を外交コンセプトを提示し、その資金を管理するアジア開発銀行を設立。核心的利益と標榜する国に対しては、軍事を背景に恫喝しつつ、協調を呼びかける。中酷の意に反発を見せれば、南シナ海での洋上基地建設と行政区の設立を強引に進め、対象国の出方を見極めながら我が意志を通して見せた。  中印国境での兵力集中と紛争惹起も戦浪外交を貫いたチキンレースの仕掛けのひとつだ。尖閣諸島への公船を頻繁に派遣し、侵略時の万が一の国防の真偽を確かめ、香港への国家安全法の適用に対する批判への強い反発に対しては、協調の意が国際社会と異なることを世界に提示した。  中酷に逆らう国があれば、経済的な圧力を掛け脅す。オーストラリアのCovid-19の起源調査要請に対抗して発動した豪州産牛肉禁輸措置や、韓国のTHAAD配備への制裁として中酷人の韓国観光旅行停止なども行い、聞く耳を持たず、常に屈することはのない姿勢を明らかにした。  戦狼外交の発端は、コンプレックスにあった。経済大国への躍進を成し遂げても発言権の弱さは、中酷がなければというものがレア―アースと安価な商品しかなく、他国が跪く物がなく、その反動から、既にある特許に少し手を加え特許を取得したり、研究機関に有能な工作員の卵を送り込み、情報を掠め取り、屈辱感をを回避していた。しかし、国際社会、特に西側諸国からの見下してくる視線は、実の伴わない国家の姿を如実に言い当てられているようで直視できないでいた。それゆえに、メディアを資金力で支配し、そのメディアの力を借り、如何にも自らの意見が正しく、反論が間違いであるかを強調するため、口調はより直接的で対立的なものになっていった。  戦狼外交は、欧米に対しての存在感を植え付けるもので、弱みを突かれまいとする危機管理に必要なものとなっていた。  秀欣平になり対外との対応は、常に自らを大きく見せるものとなり、引くに引けないチキンレースのやり取りとなった。  経済力と購買人数の多さで世界を席巻し、周囲を圧倒することでしか自国の存在感を示せなくなっていた。  その足元を見透かし、行き過ぎた我儘を弾圧するように先進国の一部が、巨大化した中酷にも卑下せず、強い口調と対応で歯向かい始めた。皮肉にも、仕掛けた戦浪外交の逆襲を受ける立場に追いやられていく。  その先導に立つのが、ドナルド・カードの米国だった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!