節分豆撒

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節分豆撒

節分が近づくにつれ、鬼の春太朗(しゅんたろう)は気が重くなっていった。 「どうしてわざわざ豆をぶつけられるために、里に下りなきゃならんのんじゃ」 「ああ、春太朗は鬼の里では初めての節分か」 今日使った弓矢の手入れをしていたちょっと年上の孫兵衛(まごべえ)はそう言うと、にやりとした。 周りを見ても、節分を嫌がっている鬼はいなかった。 むしろにやにやしたり、楽しみにしているふうであった。 「豆をぶつけられるだけじゃないからの」 「ほかに何があるんじゃ」 春太朗の問いに誰も答える鬼はいなかった。 春太朗はぷいとそっぽを向くしかなかった。 春太朗は半年前に鬼の里にやってきた。 それまで父子二人でつつましやかに暮らしていたが、ある日突然、「もうこの村にはいられない」と鬼の里から迎えが来た。 七日かかって山と山の間にある小さな鬼の里に連れてこられ、今では鬼の里での養い親の田吾作(たごさく)と一緒に暮らしている。 ここにやってきて五か月後に十三になると、こめかみのあたりがむずむずしてやがて小さな角が二本生えてきた。 このときやっと自分が本当に鬼の子で、父と暮らした人の里にはいられない存在であったことを悟った。 節分当日になると、山の滝で身を清め虎の毛皮をまとい、成人の証として角が生えたときにもらった金棒を持って、夜、他の鬼について近くの人の里まで下りていった。 人の里で春太朗は気が抜けてしまった。 豆は投げられたが、人は戸口から外に向かって適当に投げるだけなので一粒も自分に当たらなかった。 イワシの頭も鼻が曲がるほど臭いわけでもなく、人家に近づかないのでひいらぎに刺されることもなかった。 どうしてこんなところまで来て、一応「がおー」と叫んだりうなり声をあげているのかさっぱりわからなくなってしまった。 ぼんやりしていると戸が開き、里の家の男たちが手に手に(くわ)(すき)を持って外に出てきた。 そして雄たけびを上げながら、鬼を追い始めた。 状況がつかめずに立ち尽くす春太朗に、「ぼさっとしとらんで行くぞ」と孫兵衛が声をかけた。 春太朗は驚いたまま、孫兵衛にうながされるまま走り出した。 いつしか鬼たちが逃げ、それを里の男たちが追うかたちになった。 しかしそこには殺気立った気配はない。 それどころかなぜか鬼も男も浮足立っている様子だった。 やがて山のふもとまで来ると、ちょっとやそっとではわからない竹藪の奥の蔦の絡まりをくぐった。 その向こうにも道が続いており、小屋というには大きい建物があった。 中は蝋燭が灯された燭台があちこちに置かれ、朱塗りの膳にはご馳走が並び、酒の入った瓶子がたんまりと用意してあった。 まるでこれから宴会が開かれるような様子に、春太朗はただただ驚くだけだった。 「おまえは初めての節分だからな。優しく気持ちよくしてくれる男がええな」 「孫兵衛、なにを言いよるん」 尋ねる春太朗に構わず、孫兵衛がきょろきょろして何かを探している。 「ならば、三平太(さんぺいた)がえかろう」 野太い声がしたかと思うと鬼長(おにおさ)は春太朗の腕をつかむと、里の男の中でも一番の男前のところに連れていった。 「あー、三平太、今年こそはと狙っとったのに」 「まぁ、春太朗なら仕方ないのう」 「おうおう、三平太より俺のほうが気持ちよくしてやるよ。こっちに来な」 「えー、おまえは乱暴だからいやだ」 「この一年で腕を上げたから試してみろよ」 三平太は鬼から人気があるようで、羨望と落胆の声が混じって聞こえた。 それをとりなすように他の里の男たちが鬼に声をかけている。 まだ状況がわからず棒のように立っていると、男たちがそれぞれ鬼を抱き寄せ酒を飲んだりご馳走を食べたりし始めた。 やがて頬を寄せ合い、口を吸い、乳繰り合い始める。 呆然とする春太朗に三平太は声をかけ、隣に座らせた。 「俺は三平太だ。おまえは」 「春太朗」 「ふうん。その角、いつごろ生えた?」 「一か月前」 「そうか。本当に初めてなんだな」 「その子が田吾作のところの子じゃ」 鬼長が告げると、三平太は「ふうん」と言って、にやりと笑った。 「春太朗」 「はい」 鬼長に名前を呼ばれ、春太朗は返事をした。 「豆はおまえのここに撒かれるんじゃ」と、鬼長は春太朗の下腹を虎の皮の上から指で押した。 「三平太に豆を撒いてもらえ。うまくいけば子が成せる」 「え、子ども?」 驚く間もなく三平太に腕を引かれ、気が付くと春太朗は抱き込まれていた。 そして口を吸われ、次に唇を合わせたときには口移しで酒を飲まされた。 「鬼の里には女はおらん。なのに子がおるというのはどういうことじゃと思う?」 わけがわからなくなっている春太朗の横で鬼長が話をするが、きっちりと理解できるはずもない。 しかし鬼長は早口でまくし立てる。 「毎年、節分の日に里の男に豆まきをしてもらうのよ。運が良ければ子ができる。 おまえは田吾作の子じゃ。おまえの父親がおまえをどうしても手放したくなくて、角が生えるまでという条件でここから山五つ向こうの里で育てとったんじゃ」 養い親だと思っていた田吾作が自分を生んだ親鬼で、角が生えて一人前になった自分は今宵三平太に種付けをされることらしかったが、何度も何度も口移しで酒を飲まされた春太朗はすっかり酔って思考力がなくなり、三平太の胸に抱かれていた。 「かわいいなあ、春太朗は。気持ちよくしてやるからな」 三平太が耳元でささやくと、あっという間に虎の皮は脱がされ、首から腹から足から春太朗の全身をまさぐっていった。 春太朗の体はぽうっと温かくなり、三平太に口を吸われると下腹の奥がきゅんとした。 三平太の声で名前を呼ばれると嬉しくなり、そして恥ずかしくもなり三平太にすがりついた。 「任せておきな、春太朗」 「じゃけど、俺、初めてで」 「俺の名前を呼んでおけばいい」 「三平太?」 「そう、いい子だ」 頭をなでられ、体のこわばりが和らいでいくとこれまで聞こえなかった声が聞こえてきた。 「あああああん、いい、いいっ。もっと」 「もっとかぁ?」 「そう、もっと」 不安げに肩越しに後ろを見ると、顔なじみの鬼たちが里の男たちに貫かれ、とろけた顔をしてあえいでいた。 先ほど春太朗にいろいろ教えてくれた鬼長も畑仕事で鍛えられた逞しい体の男に貫かれて野太い声を上げていたし、自分を生んだと知らされた田吾作も後ろから貫かれ腰を振っていた。春太朗と目が合うと恥ずかしそうに赤い顔をもっと赤くして、そっと目を伏せた。 「なに、ほかに気を取られているんだよお、田吾作ぅ」 後ろの男は田吾作の腕を引いて自分に寄せると顎につかんで後ろを向かせ、口を吸った。 不自然にゆがんだ体勢だったが、それさえも快楽となるのか田吾作は塞がれた口の端からふうふうと艶っぽい声をこぼす。 「ほら、春太朗、どこ見てんだ」 三平太に顎を取られ、春太朗も口を吸われた。 胸の乳首も固くなっていく雄も三平太にこすられ、こねられ、しごかれる。 そして自分も他の鬼のように声がこぼれ出る。 「やじゃ、これぇ」 「そんなこと言えなくしてやる」 「ひゃっ」と声を上げると同時に、三平太の太い指が後ろの孔にじゅるりと滑り込んでいく。 「初めてだからしっかりと慣らさねぇとな」 春太朗は自分の後ろの孔がじくじくと濡れて、三平太の指を滑らかに飲み込みやすくなっているのに驚いた。 「節分の酒を飲んだ鬼はなぁ、こうなるんだよ。気持ちいいだろう」 「よく、わから、なぁぁ、んんんっ」 「ふふふ、中をこすられて気持ちよくなってるな。よしよし。春太朗、いい子だ」 あまりに気持ちよくてそこから逃げ出したいのに、とろとろに溶かされ、反応するごとに「いい子だなぁ、春太朗」と甘く囁かれるので、春太朗はただただ「三平太あっ。あああっ、さんぺいたあああぅ」としか言えなくなっていた。 優しく貫かれると三平太の首にしがみつき、胡坐をかく三平太の上に座らされ下から突き上げられると泣きながらよがり、何度も何度も奥の奥に大量に豆が撒かれた。 気がついたのは翌日で、見慣れた田吾作と暮らす小屋の天井が見えた。 田吾作が心配そうに春太朗の顔を覗き込むと、昨夜の田吾作の痴態と自分の乱れっぷりを思い出し、春太朗は「きゃっ」と布団の奥に潜ってしまった。 田吾作は困ったように眉を八の字にしたが、ふふふと笑うと春太朗のために炊いた粥をよそいにおくどさんのところに行った。 おしまい
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