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一
富士山が噴火したと、スマホに緊急速報が入った。
冷え込む二月の晴れた午後だった。
マンションの一階。建物の陰になり日当たりの悪いこの部屋で、電気毛布に暖をとりながらベッドに横たわっていた望未の胸は、どくどくと動悸を強めていた。
ついにこの時が来た、と、望未はできるだけ深く呼吸をするよう努めながら考えた。
首都直下型の大地震が先か、富士山の噴火が先か、いずれにせよ東京が大災害に見舞われた時には自分は死ぬのだと覚悟はしていた。
望未が生きられるのは、平穏無事な日常の中でだけなのだ。
まだ落ち着かない左胸を抱えて起き上がり、望未は充電可能なありとあらゆる機器を電源につないだ。
この一帯に火山灰が降り始めるまで数時間。
灰が三ミリ積もったところに雨が降れば、送電設備がショートして大規模停電を引き起こす恐れが高まる。
幸い今日は晴れているので、すぐに停電にはならないだろう。それは望未にとって大きな救いだった。
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