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玄関の鍵を開ける音が聞こえたのは、日付が変わる頃だった。
「足立、さん」
望未は弱い声で足立を呼んだ。
「悪い、起こしちまったか? ちょっと待ってな、灰がすごいから……」
「足立さん……」
望未は泣き出した。エネルギーを消耗しすぎた体は冷え切って、うねるような苦しさに不安と恐怖で気がおかしくなる寸前だった。
「遅くなってすまなかったな、連絡したかったんだが、電話番号を聞かないままだったみたいで」
玄関で服を脱ぐ音が止んだ。部屋の中を左右に振れながら近づく懐中電灯の明かりが、涙に乱反射する。
「いやー、物資がなかなか到着しなくてな。散々待たされた上に……」
光の円が望未の顔を捉えると、足立はギョッとした。
「どうした!?」
「私……どうしよう、失敗した……だめかもしれない、体が冷たくて……」
「落ち着け、大丈夫だ。味噌汁をもらってきたから、今作ってやる」
「だめ……もうだめかも、苦しい……」
泣きじゃくる望未は、冷静にものを考えられなくなっていた。
変わり果てた様子に足立は理解が追いつかず、しばらく唖然としていたが、とにかく冷えをどうにかしなければと、服をもう一枚脱いでベッドに入り込んだ。
「熱源ならここにある。温めてやるから、落ち着いてじっとしてろ!」
抱きしめる足立の体は、電気毛布よりもずっと暖かかった。
その熱はじわじわと望未の体に移り、それに安心したのか望未は次第にまどろんでいった。
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