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五
右手が妙に熱を持っている気がして、望未は目を開けた。
カーテンの隙間から差し込む薄ぼんやりとした明かりが、暗い部屋を照らしている。
見覚えのない天井だった。わずかながら消毒液の匂いが感じられた。
少し視線をずらすと、点滴のパックが金具に吊るされている。
熱を持つ右手は、ベッドの脇に伏せて眠っている男がしっかりと握っていた。
指を少し動かしたら、男は弾かれたように飛び起きた。
「足立さん……」
「望未、目が覚めたのか……!」
「なんで……」
「大変だったんだぞ、近くの病院に手あたり次第電話して……やっとつかまった先生に必死で頼み込んで、なんとか栄養剤を注射してもらったんだ。本当に、もう助からないかと……いや、そんなことより、看護師さんを……」
立ち上がろうとした足立の手を、望未は出せる限りの力で引き留めた。
「私……死ぬつもりだったのに……」
「嘘つけ」
足立はぺチンと望未の額を叩く。
「なんとか生きたいから災害に備えてたんだろ? 希望を捨てたくなかったから、俺を待ってたんだろ?」
その言葉にいたたまれなくなって、望未は両手で顔を覆って泣き出した。
「ごめん……ごめんなさい……」
とめどなく流れ落ちる涙は、たしかな熱を持っている。
「ありがとう……。生きられて、嬉しい……」
足立はぐしゃぐしゃと望未の頭を撫でた。
その手は、相変わらずの強い生命力で望未を包み込んでいた。
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