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 窓の外がたちまち灰の雲に飲み込まれる様子を、望未はベッドから見上げていた。  それはゾッとする光景だった。自然を前に人は無力なのだと、嫌でも思い知らされた。  よほど灰の層が分厚いのだろう、今の今まで降り注いでいた光は、もはやこの東京に到達する術を失ったようだ。  急に存在感を増した窓の明かりさえ、次第にぼやけて見えなくなった。  こうなるともう外には出られない。望未だけではない、皆がそれぞれに孤立してしまった。  降灰との戦いが始まった。    望未は足立に渡された電話番号を手に取った。  様子を見に来ると言っていたが、灰が降っていてはそう易々と部屋を出ることもできないはずだ。  それはそれで良かったのだろう。素性のわからない相手と下手に関わって、死期を早めることにでもなったら後悔する。  電気が届いている間は、できるだけいつも通りに過ごすよう努めた。  外が暗いままなことを除けばこれまでと何ら変わったことはない。  冷蔵庫の中の食材を使って定時に食事をとる。夜はできるだけ早く眠る。体を冷やさないように気をつける。  それと、富士山の麓で起きている惨事の情報には極力触れないようにする。  不安と恐怖は容赦なくエネルギーを奪っていく。起きてしまった不幸に望未がいくら心を痛めたところで、何も事態は改善しないどころか、自分が苦しむだけなのだ。  ただただ心を落ち着けて、いつも通りに。  望未にできるのはそれだけだった。  
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