14人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
二
窓の外がたちまち灰の雲に飲み込まれる様子を、望未はベッドから見上げていた。
それはゾッとする光景だった。自然を前に人は無力なのだと、嫌でも思い知らされた。
よほど灰の層が分厚いのだろう、今の今まで降り注いでいた光は、もはやこの東京に到達する術を失ったようだ。
急に存在感を増した窓の明かりさえ、次第にぼやけて見えなくなった。
こうなるともう外には出られない。望未だけではない、皆がそれぞれに孤立してしまった。
降灰との戦いが始まった。
望未は足立に渡された電話番号を手に取った。
様子を見に来ると言っていたが、灰が降っていてはそう易々と部屋を出ることもできないはずだ。
それはそれで良かったのだろう。素性のわからない相手と下手に関わって、死期を早めることにでもなったら後悔する。
電気が届いている間は、できるだけいつも通りに過ごすよう努めた。
外が暗いままなことを除けばこれまでと何ら変わったことはない。
冷蔵庫の中の食材を使って定時に食事をとる。夜はできるだけ早く眠る。体を冷やさないように気をつける。
それと、富士山の麓で起きている惨事の情報には極力触れないようにする。
不安と恐怖は容赦なくエネルギーを奪っていく。起きてしまった不幸に望未がいくら心を痛めたところで、何も事態は改善しないどころか、自分が苦しむだけなのだ。
ただただ心を落ち着けて、いつも通りに。
望未にできるのはそれだけだった。
最初のコメントを投稿しよう!