序 始まりの夜

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序 始まりの夜

しんしんと降り積もる雪に、ソルベニウス王国の(たみ)達は、震えていた。 この余年、小麦の出来が悪い。裏年に当たったのか、実りは豊作とは言えず、大陸一の小麦生産を誇るこの国には、大きな痛手であった。 小麦を他国に輸出することで、一国を賄っていると言ってよいほどの農業立国は、今、貧困に喘いでいる。 たかが、小麦と笑っていた豪商達も、輸出という商いが成り立たなくなり、頭を抱えた。 かろうじて、蓄えを崩しながら、他の商売(あきない)で身をたてようとやっきになっているが、今更の新参者扱いで、他国の商人に歯が立たたない。 経済の歯車が外れ始め、内需は当然低迷し、日々の生活に不況の影を落とす。 今日のパンが買えるかどうか。肉など久方食べていない。下々は、そんな生活を送らざる得なくなる。 もちろん、こうして雪が降ろうと、暖を取る薪を手に入れることすら、困難になっていた。
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