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一章 ロイド家の双核「一」
「と、まあ、そうゆう事情で、今日の私があるのです」
「セバスさん、あんた、意外と苦労人なんだねえ」
それほどでもと、言いながら、栗色の髪を流すようにオールバックにときつけた、端正な顔立ちの男、セバスは、屋敷の馬小屋で、自身の生い立ちを語っていた。
「ところで、モンテニューノの親方、これは、少しお高いのでは?」
手に握る請求書をペラペラさせながらセバスは笑っているが、彼のエメラルド色の瞳は前にいる馬商人、モンテニューノを射るように見つめている。
「はあー、しわいねぇ。しかし、身の上話で、値切ってこられるたぁ、思ってもいなかったよ」
モンテニューノは、肩をすくめた。
「おや、私が?いつ値切りました?」
ふふふ、と、不敵の笑みをうかペるセバス。
しかし、仮にも、人の頭に立つ親方と呼ばれるモンテニューノも負けていなかった。
「あー気に入らなきゃあ、仕方ねぇなぁ。ロイド家は、馬の一頭も買えねぇと、妙な噂が流れるだけさ」
セバスの眉が、一瞬、吊り上がったのを、モンテニューノは、見逃さなかった。
ヤニ色のでこぼこした歯が、見えるほど、大口を開けて笑うと、連れてきた馬の手綱を取る。
「悪いねぇ、他のお客が待ってるんだ、行かせてもらうよ」
勝負あったとばかりに、モンテニューノは歩みだすと、馬が、ブルルと首をふる。
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