一章 ロイド家の双核「二」

15/22
前へ
/100ページ
次へ
「エドワードさん。どうか、頭を上げてください」 ロイド家の裏方も裏方、一番地味で、一番キツイ部分、馬小屋の管理を取り仕切るエドワードに、頭を下げられては、流石のセバスも恐縮してしまう。 屋敷の買い出し時の荷馬車、諸々の挨拶周り時の馬車、来客時の相手方の御者と馬車の対応に、三ヶ月に一度のお嬢様への面会時の馬車……等々、何時でも何が有ろうと、その時々に適した用意が出来るのは、エドワードが、常に、馬に、馬具の手入れにと、目を光らせているからだ。   確かに、馬番頭として、ジェームズがエドワードの補佐をしているが、「あの」体たらくぶり。まだまだ、任せきることは出来ない。   表に出れば、乗る馬車の手入れ具合で、その家の格を定められる。     例え上級貴族であっても、御者の態度に、馬車の整備、しいては、馬の手入れが行き届いていなければ、裏方の管理も出来ない、はたまた、出来ないほど、懐具合が厳しいのかと、失笑される。見ている者は、しっかり見ている。   それだけに、経験を積んだエドワードの力がなければ、ロイド家の品格を保つことはできないといっても過言ではない。   馬の体調管理に始まり、馬車の器具の調整にと、見落とされがちな、些細な事までしっかりと気を配っている、そんな働き具合に、セバスは、エドワードには、絶大な信頼を置いていた。   何より、あの、雪の日の夜、セバス兄妹(きょうだい)の母を馬車に乗せた御者こそが、この、エドワードで、いくら、主人の命であろうと、あの状況では、相手にしてはならないと、逆に、(あるじ)へ意見するであろうに、いや、誰でも、面倒な事に巻き込まれると、主を説得するだろう。だが、エドワードは、素直に受け入れた。   その後、セバス兄妹も、色々あった。が、それでも、今こうしていられるのは、奥様、しいては、エドワードのお陰だと、いまだに、兄妹は、彼に礼を尽くているのである。  
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加