一章 ロイド家の双核「二」

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そうなのだ。   御者を誰にするか、など、ささいな話で、問題があるとすれば、お嬢様自身の事だろう。   一度も、姿を見せないとは、おかしなもの。修道院で行儀見習い中という理由はあるにせよ、修道女になった訳ではない。だから、里帰りぐらいはあるはずなのに。   しかも、奥様までも別荘に籠りきって、屋敷(ここ)へは足を運ばなくなった。   お二人の事は、エドワードを介するようにと言い付けられ、今では、使用人の中では、お嬢様どころか、奥様のお顔も知らない者までいる。   上のお二人のお嬢様方は、この屋敷から嫁がれた。修道院へ入る訳でもなく、普通に屋敷で過ごされていた。   ところが、姉君達が嫁がれた後、奥様は、お嬢様を連れて、別荘へ移られる。そうして、さらに、暫く後、お嬢様は修道院にお入りになった。   その時のセバスは、特に不思議に思わなかった。嫁入り前の貴族の令嬢が、修道院での行儀見習いを行うなど、当たり前の事と考えられていたからだ。 清純さを際立たせる道具のひとつと扱われていたからで、きっと、奥様は、お嬢様の良縁を願い、淑女教育に入られたのだろう。ぐらいにしか、思っていなかった。   ちょうどその頃、ロイド伯爵、つまり、旦那様が急逝され、急きょ的に未亡人となった奥様では、お嬢様を送り出そうにも、後ろ楯がやや、心もとない。 だから、修道院という手を使ったのかと、セバスは思っていたのだが……。   しかし、よくよく考えると、実に、しっくり来ない事ばかり。   修道院というものが、花嫁修業の一環ならば、長くとも一、二年の期間で終えるもの。その間に、嫁ぎ先の目星を付けておくのなのだが、お嬢様に至っては、わずか六歳で、奥様の元を離れられた。
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