二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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二章 お嬢様のご帰還準備「一」

ソルベニウス王国の王都ソルーベンの街を貫くように伸びる大通り、ランドール通りの南側端には、数々の飲食店が軒を並べている。   各店では、先にある、ルルド大劇場の公演に合わせ、開演前の待ち合わせ、開演後の語らいにと、その欲求を満たすための軽食から、フルコース料理、はたまた、喉の乾きを潤すシャンパンなどの果実酒や、薫り高いコーヒーに紅茶などの嗜好品が扱われていた。   もっとも、大通りに面したそれらの店は、すべて、高級店であり、貴族や豪商など、いわゆる、富裕層の趣向をくすぐるものしか用意しておらず、庶民には敷居の高い場所であった。   庶民らはというと、さらにその一区画(ワンブロック)先に連なる店々へと足を運び、日々の仕事の疲れを癒したり、気の置けない仲間と語り合ったり、あるいは、新しい出会いを期待して、気取った顔でテラス席に陣取ったりしていた。   そこまでは、どこの国にもみられるごく普通の繁華街の風景で、更に、もう少し深い時を過ごしたいと望む者達は、それより西側の路地裏に広がる、いわゆる歓楽街、バスバリー地区を目指す。   少しばかり、くすんだ空気が漂う通りの両脇には、飾り窓が施された店が立ち並ぶ。   男達の気を引く為に着飾った女が気だるそうに佇んでいたり、はたまた、何やら、交渉が上手くいかなかったのか、客であろう男の怒鳴り声が響いていたり、それを、嘲笑う千鳥足の男達が、通りを歩いていたりと、いかにもの、夜の街の顔を持つ場所である。   そして、そんな場所には、やや不釣り合いな二頭立ての馬車が乗り込んで来た。 どうしたことか、御者台には、男が三人、転がり落ちそうな様で座っている。
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