二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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馬車の扉が、さっと開かれ、軽やかな足取りで、セビィが降りてきた。   いつものお仕着せ姿ではなく、今流行りの、ボディスに、スカート、オーバースカートを合わせた、ドレスの上からボレロを羽織ったように見えるスリーピース型のもの。その白地の生地には、紫色の大胆なストライプ柄が配されている、艶やかなディドレスを(まと)っていた。   ドレスは、セビィの容姿を際立たせるものだったが、なにより、この街の雰囲気に負けず劣らずのおもむきをも発していた。 「じゃ、頼んだわよ、馬番三人組!」 セビィが、これから、起こるであろう事に、失敗は許されないと、御者台にすし詰め状態で収まっている三人組に渇を入れた。   三人組は、大きく頷いた。すべては、お嬢様の為。親方のエドワードも、妙に気合いが入っていた。いつもなら、即刻反対するであろう、エドワードのお墨付きときたら、馬番の意地もかかってくる。三人組は、神妙な面持ちをくずさなかった。 「まっ、そう緊張しなくても大丈夫よ。お店の皆もいるしね」 セビィは、からから笑うと、目の前にある、酒場の扉を開け、店の中へと消えた。   外まで響き渡る、酔っぱらいのダミ声。商売女であろう者の、高笑い──。あきらかに、上等な店とは言い難く、女性(レディ)一人で足を踏み入れる場所ではないと、分かりきっている所へ、セビィは、躊躇することなく踏み込んで行った。   レンガ造りの店の軒先には、「黒猫を踏み越えた乙女亭」と、これまた、この場所に似つかわしくも、禍々しい、屋号が彫られた木製の看板が掛かっていた。  
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