二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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「おい、ロイド、どうした?落っこちそうか?暫く、降りとくか?」 御者台に、ジェームズ、マイク、ロイドと並んで三人組は、座っていた。端に、すがり付くように座るロイドの様子がおかしと、隣のマイクが気を利かせた。 「あ、い、いや、マイクの兄貴、俺っち大丈夫っス!」 「は、は、は、マイクの体がデカイからなぁ。どうせ、降りる事になるんだ、無理に座ってなくてもいいんだぜ」 「い、いや、大丈夫っス。ジェームズさん。お、俺っち……」 口ごもるロイドに、マイクがおもいっきり、肘鉄を食らわした。   その勢いに、ロイドの体はぐらつき、御者台から落ちそうになる。 「うわっ!危ないっスよ!マイクの兄貴!」 「おう、元気じゃねえか。馬車酔いしたかと思ったけど、そうじゃないな」 「そ、そんな!俺っちも、馬番ですよ!馬車酔いなんかしないっス!」 妙にむきになるロイドを見て、ジェームズは、何か、勘づいたようで、フムフムと、頷いている。 「あ?ジェームズさん、どうしました?」 「だから、マイク、分からねぇか?ここは、何処だよ」 言って、ジェームズは、にやけ顔でロイドを見た。 「え?バスバリーですけど?」 一瞬の間の後、あー!と、マイクは、声を挙げた。   ロイドの様子が、どうもおかしいのは、つまり、ここ、だから……。 「はぁー、お前、何に色気づいてんだぁ?」 マイクは、ロイドの背をパコーンと力任せにこずいた。 「う、うわっ!危ないっス!マイクの兄貴!危ないっス!」 前につんのめり、ロイドは、落ちまいと、とっさに、目の前に見える手綱を掴んだ。   繋がれた、馬が、ヒヒンと鳴き、鼻頭を左右に揺らす。弾みで、馬車が小さく揺れた。 「おっと、いけねぇ」 マイクが、ぐっと手綱を引いて、馬を落ち着かせる。 「ここはなぁ、見た目じゃ、分からないが、ゆるーい下り坂になってんだ。手綱さばきが試されるって訳さ。マイクを連れて来て正解だった」 馬車にもブレーキはあるが、それは、あくまでも、減速するためのもの。その場に留るとなると、やはり、御者の腕が必要なのだと、ジェームズは語った。特に、二頭立てとくれば、がたいのある、マイクが打ってつけと言う事になる。
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