二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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目の前で、マイクの力任せに近い手綱捌きを見たロイドは、なるほどと、頷いた。 「やっぱり、俺っちじゃあ、お嬢様付きの御者なんて無理っス……」 「けっ、何、しけた面してんだよ!」 「う、うわっ!マイクの兄貴!やめてくださいよ!落ちるのはご免っス!」 今度は、何処をこずかれるのかと、ロイドは、身構えた。 「まあ、そんなに焦らなくてもいいんじゃないか?ロイド。お前にしか出来ねぇことも、これから、いくらでも出てくるさ。何せ、お嬢様のご帰還だ!お出かけも増える。裏方仕事も、これまで処の騒ぎじゃねぇぞ!」 しょぼくれる、ロイドに、ジェームズは、声をかけてやる。   もとはといえば、ロイドは、いや、ジェームズとマイクも、裏路地で、半端な暮らしをしていた。   人から金をせしめての、その日暮らし。決して、大きな顔はできない生き方をしていたのだ。   それを、セバスに拾われた。何を見込まれたのかは、正直分からないが、屋敷に連れて来られ、エドワードが、一から仕事を叩き込んでくれた。たまに、怒鳴られることもあるが、そこには、納得できる理由があった。   仕事は、確かにキツイ。だが、今のロイドの様に、何かしら、希望が持てる所がロイド家なのだ。   それなのに、いま、ロイドは、自分が得られたはずの、お嬢様付きの御者候補を連れて帰る為に、待機している。 セビィが、三人に渇を入れたのは、そうゆう理由があったからだ。しかも、相手は、素直に受け入れるとは思えない人物。最後は、力ずくでと、三人組が連れて来られたのだった。   思えば、少し不憫なもんだと、ジェームズの心の中では、馬番頭の責任が頭をもたげていた。   と、実は、なかなか複雑な空気が流れつつあるのだが、それを吹き飛ばす勢いの、かん高い声がその流れを変えた。 「やっだぁ!マイクじゃない!久しぶりい~」 呼ばれて、マイクも調子づく。 「おっ!マリーじゃあねぇかぁ。そうか!俺の事、そんなに待ってたのかぁー」    
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