二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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セバスに会えるかもという、異常な期待がサリーから、ムンムン流れていた。 その期待も分からなくもない。何しろ、あれだけの色男。おまけに、人あしらいは天下一品とくれば、女なら、誰しも心を奪われる。    そもそも、セバス自身も、わかってやっている部分がありありで、確信犯を越えた次元に達していると言って良いほど、恐ろしいほどの人たらしぶりを見せてくれる。   男である三人組でも、こりゃあ、自分が女だったら惚れるわと、呆れるような、納得するような事が日常茶飯事なのだった。   さて、不思議なのは、どうして二頭立ての馬車なら、セバス登場となるのだろうか。 「いやぁ、それが、今日は、セバスさんじゃないんだよ、サリー」 ここはひとまず、顔見知りのマイクが、伺ってみる。 「えーー!そうなんだ。二頭立てだから、てっきり……。なあーんだ」 思った通り、サリーは、切なげに大きなため息をついた。 「あー、で、サリー何で二頭立てなら、セバスさんなんだ?」 続けて、マイクは、恐る恐る尋ねた。 「えーー!マイク、知らないのぉ?!何で?あんた、セバス様の下で働いてるんでしょ?」 いや、下でって事なら、エドワードさんなんだけど?と、うっかり漏らしそうになるマイクに変わって、ジェームズが、まとめに入った。 「あー、俺たち、馬番だから、あくまで、馬の世話までなんだよぉ。だから、誰が、どの馬車に乗るかまでは、知らないんだ。もっとも、今日は、御者が、急な差し込みおこしてねぇ、人が足りなくなって、俺たちが駆り出された訳」 「あっ、そうなんだ。あんた達も、災難だったね」 そう、そう、と、マイクは頷きながら、隣に座るジェームズに「流石、馬番頭、ジェームズさん!」と、目をパチクリさせて、非言語コミュニケーションなるものを試みる。  
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