二章 お嬢様のご帰還準備「一」

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「え、え、それじゃー!!!セビィ姐さんが来てるのっっ!!!」 さっきまでの、恋する乙女仕様は、何処へやら。サリーは、あたふた取り乱し、うっそぉー!と、大袈裟に叫ぶと、三人組になど目もくれず、バタバタと足音を立てながら、自分の店へ戻って行った。 「なあ、マイク、サリーって子は、いつも、ああなのか?」 ジェームズが、呆れ顔で、マイクを見た。   まあ、何はともあれ、これで、三人組は、本来の役目に戻れる訳だ。   あとは、セビィが上手く事を運ぶことを祈るのみ──。   と、思いきや、通りがやけに騒がしくなった。 「みんなぁー!セビィ姐さんが、来てるよっ!!」 店へ戻ったはずのサリーが、仲間の女数人を引き連れ、通りで、声を張り上げている。 それを聞き付けてか、閉じられていた窓という窓が開けられ、ついでに、閉じられていた店の入り口ドアまでも開けっぴろげになり、雇われ女に、裏側を仕切る男達に、と、老いも若きも、首をつきだして、サリーの言葉に反応した。 「え?!セビィ姐さんがっ!」 「おい!マジか!セビィさん、何処の店にいるんだ!」 「い、いやっ!ちょっ、待ってよ!あたい、客の相手してんだけどっ!」 「んなもん、ほっとけよっ!」 「サリー!何処の店だ!早く言え!」 皆、口々にセビィの居場所を問いながら、わらわら、通りに駆け出してくる。   まさに街中の人間が集まって来たと言っても過言でない程の、人の群れが出来上がった。 「あ、兄貴、俺っち、ワケわかんないっス」 ロイドが、目を回し、今にも御者台から、転げ落ちそうになっている。 「お、お、お?!ロイド、しっかりしろ!」 慌てて、マイクが、ロイドの体を引き上げるように、引っ張った。 「で、ジェームズさん、何ですか?!」 「いや、俺に聞かれても。でも、マイク、これ、どうするよ」 サリーに導かれるまま、人の群れは、次々「黒猫を踏み越えた乙女亭」へと向かって行く。 皆、嬉しげに、 「あたし、セビィ姐さんに賭けるわ!」 「おめぇ、何いってんだよ!当然だろっ!」 「いやぁー久々に儲けさせてもらうか!」 と、目をランランと輝かせているのであった。
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