二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「……それにしても、セバス。気を使ってもらって、悪いね」 エドワードは、ワイングラスを傾けながら、テーブルに広げられている、設計図らしきものに目を通していた。 「いえいえ、今夜は、冷えると聞きましたからね。たまには、こうゆうのもいいでしょう」 言って、セバスは、グラスをあけた。 「なあ、セバス。これだと、馬小屋辺りまで、薔薇園が、迫ってくることになるよ?」 「そこなんですよ。今の庭では、仮に、ガーデンパーティーを開いた場合、少しばかり狭すぎて、いっそ、広げてみようかと。そうなると、エドワードさんの言う通り、馬小屋丸見えですし……」 「やっぱり、馬小屋を移動させるかなぁ。もし、馬が増えたなら、こっちも、手狭になるしねぇ」 うーんと、エドワードと、セバスは、屋敷大改造に向け、知恵を絞っていたが、二人とも、飲み干したワインが回り始め、頭の方も回らなくなっていた。 「そうだ、セバス。シーグラスレットガーデンなんて、庭もあるじゃないか?」 呂律が回らなくなりつつある、エドワードは、どことなく、ヘラヘラしながら、セバスに助言した。 「……何ですか?ジーグラスって?ガラス工場でも、作るんですか?」 「へへへ、面白いねえ。セバスって」 「あー、最近良く言われるんですよねぇーこないだなんか、グランデニュール伯爵夫人に、セバスちゃん、今日は、人払いかけてるから、楽しみましょう?かわいい私のセバスちゃん!なーんて、押し倒されて、腰が抜ける目にあわされましてねぇ」 すでに、セバスも、言っていることが支離滅裂。 「へえ、そりゃ、お嬢様の役にたつ話だなあ」 「あー!そうゆうことですか!流石は、エドワードさん」 いやいやそれほどでも、と、エドワードは、大笑いしながら、どたっとテーブルに突っ伏し、セバスは、風邪をひきますよと、いいながら、何故か、空のボトルを片付け、空いたグラスを洗って、銀食器でも磨く要領で、執拗にグラスを拭き始めた。   要は、二人とも、酔っ払った訳で、話の食い違いも、秘め事の告白も、執事の(さが)から、裏方仕事の癖が出ていることも、気が付いていないのであった。
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