二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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その頃、「黒猫を踏み越えた乙女亭」では、騒ぎを聞きつけた人で、あふれかえっていた。 「あーちょっと、失礼。通してください!」 型遅れのスーツを着た男と、カメラを持つ男が、人の波をかき分け、セビィ達の前に現れた。   この場に似つかわしくない男達の登場に、馬番三人組とセビィは、眉をひそめたが、そんな、拒否感あふれる表情を気にとめる事なく、男達は目的を切り出した。 「えーと、日刊バルバル新聞の者ですけど、取材させてもらってよろしいですか?」 「おいおい!セビィさんの貞操の危機なんだ!見世物じゃねーぞ!なあ、みんな!」 「ああ!そうだとも!」 「セビィ姐さんのピンチなのよっ!」 「よそ者は、引っ込んどけ!」  マイクの煽りに、場の群衆は、同調し、ややもすると、掴みかかる勢いを見せる。 「で?何?バルバル新聞って。聞いたこと無いんだけど」 周囲の騒ぎなどお構いなしで、セビィは、新聞記者らしき男に問いただした。 「はあ、何でしょうねぇ。何せ創刊したばかりですし。私が来たときには、もう、名前が決まってましたから、何?と言われましても」 「あーそれで、ネタ探しってこと。確かに、老舗新聞とまともにやりあっても、仕方ないものね。ゴシップ記事でも扱わなきゃ話になんないわ」 「おや、お嬢さん、なかなか話がお分かりで」 何やらくだけた会話に、マイクは、渋い顔をしてセビィを見る。これでは、作戦が、台無しだ。今のところ、ほぼ順調に進んでいる。これから、最後の仕上げに入ろうとしている時に……。 「とはいっても、私も、記者って、初めてなんですよ。元は、月刊セビィーヌにいたところの転属。いやはや、まったくもって」 セビィと話して気が抜けたのか、はたまた、元々、こうゆう性格なのか、記者は、聞かれてもない身の上を、ペラペラ喋った。 「え?記者さん、月刊セビィーヌって、それ……」 驚くセビィに、 「はいはい、日刊バルバル新聞は、月刊セビィーヌの系列でして」 記者の言葉に、周囲も、ざわめき立つ。
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