二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「……あーなるはどねぇ、そして、あちらの三人組が、片傷のジャックを縛った……と。で、そこの、片傷のジャックさん、よろしければ、本名と、年齢、どこにお住いか、教えて頂けませんか?」 職業柄か、はたまた、こうゆう性格なのか、皆が避けて通るジャックに向かって、記者は淡々と語りかける。 「……あ?それで……誰が、はいはいと、答える……か」 ジャックは、忌々しそうに記者を見るが、腫れた顔が痛むらしく、どこか口が重い。 「なるほどですね。えーと、通称、片傷のジャックこと、本名不明、住所不定、年齢不明の、白銀髪の中年……と。では、次は、三人組に移りましょうか、セビィさん」 「そうね。顔が腫れた、どこの馬の骨とも知れないおっさんなんか、ほっときましょう」 セビィの嫌みに、ジャックは小さく舌打ちするが、たちまち、眉間にシワが寄った。やはり、相当な痛みがあるようだ。 「じやあ、次、馬番三人組さん」 記者の呼びかけに、三人組は、シャキッと背筋を伸ばした。 「まあ、そう緊張なさらず」 「し、しかしですよ、記者さん」   と、ジェームズ。 「そ、そうです!記者さん」 と、マイク。 「月刊セビィーヌなんて、お、俺っち、俺っち!」 と、ロイド。 「あーこれですね、日刊バルバル新聞なんですけど?」 念を押す記者の言葉など、三人組には届いてないようで、直立不動のまま、待機している。 「まあねぇ、月刊セビィーヌって聞けば、こうなるわよねぇ。まったく……」 セビィの呟き通り、このソルベニウス王国では、月刊セビィーヌに始まり月刊セビィーヌで終わる、と、言われるほど、この雑誌は、男のバイブル的存在なのである。 しかも、一説によると、この雑誌読みたさの為、四割程であった識字率が、八割近くにまで上がったといわれている程、恐るべき魅惑的なものだった。   特に、男達を惹き付けたのが、連載されている、「聖女マルグリット。その愛の遍歴」という、実に浅いタイトルの小説だった。   修道女見習いのマルグリットが、本来の愛に目覚めて重ねて行く男性遍歴の数々を、赤裸々に書いた官能小説が、受けに受け、さらには、あまりにもハレンチ過ぎると、何度か発禁処分を受けるというスキャンダルも重なって、大ブームを巻き起こしたのだった。
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