二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「概略は、わかりました。それでは、写真と、参りましょうか」 記者の言葉に、馬番三人組は、ガチガチに固まる。 「あっ、セビィさんは、その、前へ」 立ち位置を指示する記者に、セビィは、ポーズを取って見せた。 「セビィさん。お気持ちは良く分かりますが、被害者ですから、この場合、後ろの三人組のように、ガチガチになって頂く方が有りがたいのですけれど」 「あー!そうだったわ!私、おっさんに襲われたのよね!」 「はい。そうゆうことです。ご理解頂きありがとうございます。では」 記者の言葉と同時に、再び、ボン!と音が響き、パアッと光が広がった。 「はい、お疲れ様でした」 はぁーと気の抜けた息を吐く三人組に、カメラマンが小さく頭を下げた。 「えーっと、では……次は……」 「あー!そうだったわ!ロイド!」 セビィは、ロイドを急かした。 「あっ!俺っちの番だったス!け、警察、警察を呼んでくれぇぇーーーー!」 目一杯叫ぶ、ロイドの声に、大興奮中の群衆は、何事かと、振り返る。そんな中、 「あっ、そうだな!セビィちゃん、警察呼ばなきゃな!」 カウンターに控えていた店主が、妙に弾けた声を出し、記者を見た。 「どうでしょう。記者の旦那、あっしも、いや、この店も、月刊セビィーヌに載せて貰えませんか?悪漢退治の協力者、警察を呼んだ、黒猫を踏み越えた乙女亭の店主、なんて感じで」 「あー、その、誰を載せるか最終的に決めるのは、私ではなく、上司なので。しかしながら、最善を尽くしましょう。それよりも、私、日刊バルバル新聞の者なんですけど……」 「いやぁー何でも一緒でさぁー。それより、どうです?そちらのお兄さんも」 店主は、一杯おごると、グラスを、差しだしてくる。 「残念ながら、仕事中なので。お気持ちだけ、頂いておきますね」 「はぁ、さいですか」 少しばかり、消沈する店主を尻目に、記者は、少し考え込んで、パチンと、指を鳴らした。 「セビィさん、この時間、警察も動きが、鈍い。それに、じっと待っているのも、時間の無駄です。もう、こちらから、出向きましょう!」 「そうね、こんな、人混みギッチギチの所で、じっとしておくのも、なんだか、馬鹿らしいわ。どうせ、警察沙汰にする予定だったんだから、いっちゃいましょう!馬番三人組、馬車の用意よ!」 セビィに言われて、マイクが、駆け出した。思えば、馬車を預けっぱなしにしていたのだ。 人混みを、かき分け、店の外に出てみると──。 「えぇーー!マジかよおおおおーーーー!馬車が、ねぇーー!!!」 預けていたはずの二頭立て馬車が、消えていた。
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