二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「あんのやろおー!」 酒代まで渡した顔見知りに、ロイド家の二頭立て馬車が盗まれたと、マイクの怒りは、相当なものだった。 「えー!馬車がなくなっちゃたの?!」 セビィの声が、マイクの背後で響く。 「あっ!セビィさん!すみません!俺!」   振り向き様に、詫びの土下座をしようとするマイクをセビィは、押し留めた。 「あのさぁ、なんでもかんでも、座り込めば良いって訳じゃないんだから。なくなっちゃたものは、しょうがないじゃない?マイクのせいじゃあないんでしょ?」 そもそも、二頭立ての馬車で、乗り込んで来たのは、セビィが、乗ってみたいとごねたからでもある。確かに、通常の移動馬車より、車体は、より、装飾されており、座席のスプリングも上質で、乗り心地はかなり良い。   自分が無理を通したからという思いがあるのか、セビィは、妙に、マイクを庇い立てた。   それに、感動したのが……。もちろんのこと、三人組である。 「セビィさん!そんな!そんな!」 感極まるマイクは、大粒の涙を流し、セビィにがっしりと抱きついた。まさに、男泣きとは、この事と、残りの二人も、この情景にもらい泣き。 「マイク!」 「兄貴っ!」 涙声を発しながら、ジェームズとロイドは、セビィとマイクに駆け寄ると、これまた、がっしり抱きついた。   いつもの三人組、スクラムであるが、今回は、真ん中にセビィを加えての、感激お涙スクラムだった。   「はい!いいですねぇ!」 日刊バルバル新聞の記者の、軽い声と共に、またもや、ボン!と弾ける音がして、光線が走る。   目を(しば)たかせる、三人組とセビィに、カメラマンが、小さく頭を下げていた。 「婦女暴行は、未遂に終わり、喜びの涙を流すの図。いやぁ、これは、読者の心を掴みますよ。それにしても、なんという悪党でしょう。片傷のジャックという男は」 「……そ、そうだわ!きっと、ジャックが、指示したのよ!セビィが逃げられないように、馬車を盗めって!」 さっと、三人組、セビィ、記者とカメラマンの非難の目が、ロープで縛られ動きがとれないジャックに向けられた。 「ジャック、あんた、そこまで、したのかよ」 と、何故か、ジャックを縛るロープの端を持ち、見張り番になっている「黒猫を踏み越えた乙女亭」の店主が、ため息をつく。
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