二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「なっ!……暴行受けたのは、オレの方だろうっ!」 言いがかりを越えた、捏造に、ジョンも流石に頭に来たのか、声を粗げるが、セビィに蹴りあげられた顔は、さらに腫れ上がっており、その痛みからか、グッと、喉を絞るかのような息を吐く。 「はいはい、極悪人がおとなしい内に、警察へ行きましょうか」 記者が、仕切る。 「ちょっと待って!警察に、行く前に、示談ってものも提示しておくわ」   ふふふと、ジョンに向けて、セビィが笑いかける。 「……お前なぁ、最初から、何企んでたんだ?」 「だから、うちのお屋敷で、働かないかっていってるじゃあない」 「あっ!馬車の弁償が!」 と、マイク。 「おっと、馬二頭の弁償も!」 と、ジェームズ。 「あぁっと、お嬢様の専属御者になって欲しいっス!」 と、ロイド。 「お嬢様……だと?」 ジョンが、ジロリとセビィを睨んだ。その迫力に、怯むわけでもなく、セビィは、そらぞらしく、なよなよと、記者の側へ移動した。   実はセビィ、三人組のスクラムから、解放されたくて、隙を伺っていたのだ。 「やだ!記者さん!悪党は、うちのお嬢様まで、狙っているわ!」 「やはり、早急に警察へ参りましょう。馬車は、我々と相乗りで」 「まあ、話が早いこと!」 「……セビィ!お嬢様って!」 なにやらジョンが言いかけるも、ぐっと、体がのけぞった。 「おいおい。往生際が悪いねぇ。逃がさねぇよ」 「黒猫を踏み越えた乙女亭」の店主が、縛るロープを引っ張っている。 「……てめぇら、つるみすぎなんだっ!」 自由にならない体と、顔の痛みにジョンは、苛立ちを隠せない。 「セビィさん、こんな暴れる悪党と一緒は、まずい!ちょっと狭いですけど、御者台に相乗りする方が安全だ!」 言って、マイクは、「黒猫を踏み越えた乙女亭」の店主から、ロープを取り上げると、ジョンを引きずり、記者達が乗って来た馬車へ、押し込んだ。 「おいおい。マイク!勝手に動いてくれるなよ!うちの店が、紹介されないじゃあないか!」 怒れる店主をなだめるかのように、記者が、 「いやいや、ご亭主。ご協力ありがとうございます。怒れる悪党をよくぞ、今まで、見張って下さった!」 などと、胡麻をすりながら、カメラマンと馬車に乗り込んでいく。   セビィは、御者の手を借り、御者台に。そして、馬車の中には、マイクがジョンの隣に座り込み、向かい側に、手帳を持った記者と、カメラを構えたカメラマンが、何故か、取材体制の構えで座っている。 「気をつけ行きなよ!で、記者さん、うちの店のこと、たのんだよ!」 はいはい、と、馬車の中から記者の声が聞こえたような気がするが、御者の鞭打つ音が邪魔をした。
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