二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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──では、五分後に。裏門で。あなた達は、馬車の用意を。 ドア越しのセバスの声に、ジェームズは、はいっ!と、答えると、ロイドを引っ張った。 「急ぐぞ!5分しかない!」 「でも、セバスさん、5分で、支度できるんスっか?!」 「ロイド家の敏腕執事モードに入ったセバスさんに、不可能はないんだ!身支度ぐらい、本気になったら、30秒以内にできる!」 「……それは……いくらなんでも、ジェームズさん、ないっスよ!」 「つべこべ言うな!行くぞ!あー、馬車、どうするかなぁ。帰りは、人数増えるだろ?」 「それに……あのぉ、やっぱ、ジャック、連れて帰るんっスか?」 ロイドが、不安そうな顔をした。まあ、ほぼ、セビィの計画通りとは言え、あれだけの大立ち回りを行った末、新聞記者まで出てきたのだ。ロイドが、不安になるのもわからなくはないが、ジェームズ自身、これから、あの、ジャックとどう付き合っていくべきか、問われれば、答えに窮する状態だった。 「まあ、セビィさんの希望だし」 「……そうスっよね!セビィさんの希望スっ!」 うん、と、二人して頷くと、急げ急げと、廊下を走る。 と、お約束的に、セバスの部屋から、叱咤の声が流れて来た。 「二人共、子供ですか!廊下は、走るものじゃありません!」 ゲッ、と、馬番二人は、肩をすくめつつ、いそいそと、馬小屋へ向かった。 そして、馬車を用意して、裏門へ、ジェームズ達が向かうと──。   お仕着せ姿をビシリと決めて、懐中時計を手にしたセバスが、眉間に皺をよせながら、不機嫌そうに、立っていた。 「全く、5分と言ったはず!只今、8分41秒ですよ!あなたがた、5分前行動という言葉を知らないのですか!」 8分強で、馬車を廻せたのだ、そこは、努力というものを考慮して欲しかったのだが…… 。それに、5分の5分前行動と、なると……。0分ではないのか? 「セバスさん、めちゃくちゃですよ!」 思わず、ジェームズが叫んでいた。 「しかしですよ、急がしたのは、あなた方。セビィの一大事とやらで、助けを求めに来たではありませんか!さすれば、乗って来た馬車をそのまま、待機させておけば、5分あれば十分のはず!」 確かに。一理も二里もある、正道発言だ。 「すみません。セバスさん」 「すみません、って、ジェームズ、それで、何故に、荷馬車なのです?」 半ば呆れ顔で、セバスは、ジェームズを見る。 「あーそれは、そのぉ」 「全く、訳が分かりませんね。とにかく、警察とやらに、向かいますよ。事情は、道々、聞かせてください」 不機嫌なまま、セバスは、荷馬車の荷台に飛び乗った。 「全く、私は、こうゆう動きは、嫌いなのですけど。もし、ここで、ずべっと、落っこちてしまったら。かといって、安全を考え、よじ登っていたら、そうゆう時に限って、何かに、服を引っかけて、ズボンが、ビリビリ~と、言うことになりかねず。ああ、もう!」 ひたすら機嫌の悪いセバスを乗せ、荷馬車は、動きだした。御者台に座る、ジェームズとロイドは、いつ、理由のない雷が落ちるかと、ヒヤヒヤしていた。
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