二章 お嬢様のご帰還準備「二」

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「どうゆうーーことですかっーー!!」 「いや、セバスさん、そのですね、なんというか……」 ジェームズは、道々、街での経緯をセバスに話した。絶対的に、怒りを買うのは分かっていた。何しろ、大立ち回りの挙げ句、二頭馬車を盗まれ、ついでに、新聞記者まで現れて、取材されてしまったのだから。   「まあ、なんと、言うことでしょう!月刊セビィーヌが、あらわれるとわっ!」 「え?セバスさん、そこ、ですか?あのぉ、警察沙汰になってしまってて、で、馬車を盗まれて……新聞にまで、扱われてしまい……」 「だから、警察沙汰なのでしょう?場所が場所です。馬車も盗まれるでしょう。どうせ、セビィが、二頭馬車に乗りたぁーい!とか、言ったののでしょう?それに乗ってしまうのも、それなりの、罪ですが、やはり、月刊セビィーヌは、まずい!」 「セバスさんも、月刊セビィーヌっスの愛読者スかっ?!」 「馬鹿をお言いでない!ロイド!あのような、低俗な雑誌に、目をつけられてしまったのですよ!世の中の笑い者になってしまうではないですか!」 あーーー!と、御者台で、叫び声が響く。 「で、ですよねぇ。ロイド家の秘部なんて、書かれてしまったら!セバスさん!」 「そうです!ジェームズ!秘部ですよ!秘部!なんという、響きでしょう!しかし!前を向きなさいっ!前進中の御者が、後ろを振り返るなんて、なんたることっ!」 あわわっと、ジェームズは、あわてて、手綱を握った。 「さて、その片傷のジョンとやらは、結局?」 「……それが、良くわからないんです。それに、警察の方で、またどうなってるかって、話ですし……」 ジェームズが、おそるおそる言った。そもそも、警察沙汰にする、と、決めたのは、セビィだったのだ 。 「いいこと?うだうだ言い始めたら、セビィーが色仕掛けで、攻めるわ。あら!皆、びっくりしちゃって!色仕掛けって、いってもね、ジョンが、セビィに手を出したって、騒いじゃうの!で、ジェームズとロイドの出番!警察を呼べっ!て、周りを煽る!あとは、適当に、ごたく並べて、警察に連れて行けばいいだけよ。そうしたら、さすがに、ジョンも折れるでしょ」 と、綿密なる計画を実行したのだったが、成功したのか、どうなのか、さっぱりな結果になっている。まあ、警察には、行けた。あとは……。 「身元引き受け人に、お兄様辺りがなれば、ジョンは、もう、こっちの(しもべ)よ」 計画の、最後の仕上げを行えば、ジョンは、ロイド家に縛られることになる。   誰しも、拘留されるのは、嫌なものだ。そこへ、身元引き受け人が現れれば……。   という筋書きあっての、この騒ぎ。果たして、セバスが、ジョンを受け入れるかどうかだが、ジェームズへの問いかけからすれば、セバスには、ジョンを雇い入れるつもりがあるようだ。 「そうですか、セビィでは、まだまだ、役不足だったという訳ですね」 はぁーと、息をつくセバスに、ジェームズは、思いきって、問ってみる。 「やっぱり、ジョンを雇んですか?」 「当たり前です。エドワードさんのお墨付きですからね」 「ええええーーー!エドワードさん、本気だったんですか!」 「だ、だからっ!ジェームス!前を向きなさいっ!」 「あー、セバスさん、大丈夫っスよ、もう警察に着いたっス!」 「あー、セバスさん着きましたね」 全く、と、呟くセバスは、誰に怒る訳でもなく、不機嫌な表情のまま、またもや、ぐずぐず言いながら、荷台から降りると、御者台二人組には、残る様に言いつけて、すたすた歩んで行った。      
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