三章 片傷のジャック「一」

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「はいはい、詳細は、エドワードさんに聞いてください。とにかく、帰りますよっ!」 ジャックを押さえ込む、セバスの一声に、側にいた警官が、ほっとした顔つきで、紙を差し出してきた。 「スミマセン、規則なもので、身元引き受け人のサイン、こちらによろしいでしょうか」 まだ、あどけなさの残る警官は、すがるようにセバスを見る。 確かに、この面子、今や、顔が腫れ上がり、判別の付かない、情報屋とかいう裏の人間、それを、見張る、筋肉質のがたいがっちりの男、そして、やかましぃわっー!と、叫びたくなる、泣き声を挙げる女に、ストロボ式のカメラを持つ男と、逐一メモる、野暮ったい男が、揃ってしまっては、この、若警官の力では、限界だろう。   って、カメラマンに、メモ魔の男?! 「……警官さん。つかぬことをお伺いしますが、私、この、見知らぬ訳の分からない二人組まで、引き取る羽目になるのでしょうか? 」 いえ、それは……と、口ごもる警官に変わり、メモ魔の男が、自己紹介とやらで、口を挟んできた。 「あー、どうも、どうも、自己紹介が遅れまして。私共は、日刊バルバル新聞の記者と、カメラマンでして……」 「あー、最近創刊された、新聞ですね。確か、月刊セビィーヌの系列でしたか……」 セバスが、記者の長口上を遮るように言う。 「えーーーー!」 と、警官が、セバスの返しを遮るように叫び、胸ポケットを探ると手帳を出した。 「こ、光栄です!あの、月刊セビィーヌの方々とは露知らず、なんと、無礼な扱いをしてしまったのでしょう。で、申し訳ありませんが、これに、サインなどして頂けませんか!!!」 警官は、身を乗り出して、手帳を、記者へ差しだした。 「あの?私も、規則上、署名しなければ?」 「いえいえ!!まさか!あの!まさかの、月刊セビィーヌの編集者の方だとわっ!わ、わ、私は、記念のサインが欲しいのですっ!!」 真っ赤になりながら、懇願する警官をフォローするように、セバスは、記者へ言う。 「まあ、本来、日刊バルバル新聞の記者さんでしょうが、勘違い記念で、サインするのもよろしいのでは?」 「なるほど、しかし、さすが、セビィさんの兄上、酸いも甘いもわかりきっておられる。まさか、日刊バルバル新聞の事をご存知とは!」 記者は、警官は警官から、手帳を受けとると、さらさらと、サインという名の署名をした。 その姿に、羨望の眼差しを送る、警官と、マイクの姿がある。 「おーや、そこのジャックは、憧れないんですか?月刊セビィーヌですよ?」 「あほくさ、ガキじゃああるまいし。そもそも、月刊セビィーヌじゃあないだろう?」 「さすが、情報屋ともなると、言うことが違いますねぇ。して、あなた、名前は?」 セバスが、警官から渡された書類に、諸々を記入していた。 「はあ?ジャック、で、いいだろ?それしかねぇよ」 「うーん、警官さん、と、尋ねたい所ですが、それどころではなさそうですね」 念願かなったと、警官は、記者のサインを眺めて悦に入っている。ついでに、ジャックを捕まえた事で、縛るロープを握っているマイクも、羨ましげに覗きこんでいた。   その姿に、セバスは、呆れつつ、仕方ないと、ペンを走らせる。
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