三章 片傷のジャック「一」

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「では、これでいかがでしょうか?形式的なものですので、多少、略式記入させて頂きましたが」 セバスは、渡されていた書類を警官に見せた。 「……略式記入?ですか……」 悦に入っていた警官の表情が、一転し、本来あるべき職務につく者の顔に戻った。 「えーと、引き受け人、セバスティー・グランディエール……は、と……、以下の者、セビィーヌ・グランディエールと、ジャック・オ・ランタンの身元を……ん!?」 「なんですかーー!それ!」 マイクが叫ぶ。 「うっせぇーよ!耳元で、叫ぶな!この、でか男!」 隣に座るマイクの叫びに、ジャックが、苛立った。 「いやいや、セビィさん!セビィさんって、セビィーヌだったんですかっ!」 書類を持つ手をぷるぷる振るわせながら、警官は、セビィに、責めぎよる。 「あーら、カイルには、言ってなかったかしら?セビィーヌって、長いから、普段は、セビィで通しているって」 「いやいや、できれば、セビィーヌのままで!」 「そうですよ!セビィさん、セビィーヌのままで、いてくださいっ!!」 警官とマイク、二人の若人の目は、爛々と輝いていた。 「全く、なにを期待してんのかねぇ、こいつら」 ジャックの呻くようなつぶやきに、セバスも、うっかり返事しそうになったが、思えば、妹セビィ、何故、ここに来てまで、この若警官までも、手玉に取っているのか。カイル、なんて、名前まで、呼んでいる。そして、カイルとかいう警官は、セビィーヌ、セビィーヌと、連呼して、ジャック曰くの、何を、期待していることやら。 「あのですねー補足しますと、私どもは、孤児でして、名前は、孤児院でつけられたもの。確か、その時は、まだ、月刊セビィーヌは、発刊されていなかったかと。偶然が、重なっただけなのです。因みに、グランディエールは、孤児院の名前で、そこで、育った者は、皆、グランディエールになる訳でして……」 「誰も聞いてやしないぜ、セバス」 ジャックが、鼻で笑った。 「はいはい、別に私は構いませんよ、オ・ランタンさん」 「あー!助かりました!」 と、いきなり、記者が割って入ってきた。 「通称、片傷のジャックこと、本名不明、住所不定、年齢不詳の、白銀髪の中年、では、正直困っていたので。まあ、不明揃いの方が、悪どさは、出ますけどねぇ。えーと、本名、ジャック・オ・ランタン、と。ん!これは、スクープでは??!セバスさんっ!」 「スクープ?ですか?」 「何せ、片傷のジャックの本名が分かったのですから!」 まあ、言われてみればそうではあるが、片傷のジャックとやらの身元の謎に、そこまで需要があるとは思えない。そして、既にある、通り名で十分では、ないだろうか。と、セバスは思いつつ、弾ける記者にとっては、少々酷な告白を行った。 「あのですねー、その、名前、今、私が、考えたもので」 「はあ?セバスさん?」 「いくらなんでも、公式書類に、片傷のジャック、は、ないでしょう?」 「と、言うことは、偽名ですかっ!!困りますよ!そんな適当な事を書かれたら、私は、始末書何枚書かないといけないのやら、と、いう以前に、セバスさん、あなたも、偽証の罪に問わなければなりません!」 浮き足立っていたはずの警官が、任務に忠実な公僕に変貌して、セバスの会話に反応していた。
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