三章 片傷のジャック「一」

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「ですから、略式、と、言ったではありませんか」 「セバスさん、それは、略式、とは、言いません!」 警官は、頑として、いわゆる、融通というものを効かそうとしない。その態度にキレたのか、ジャックが叫ぶ。 「あー!うっとおしぃー野郎たちだっ!ジャック・オ・ランタンで、いいだろうがっ!!そうとも、俺は、ジャック・オ・ランタンだっっ!」 「で、本当のところは?」 なかば、やけになっているジャックに、セバスは、(ささや)く。 「サンルー……!なっ!!セバス!!てめぇ!!子供みたいな、引っかけ、かましやがって!」 「はい!合格!いや、示談成立っ!!皆さん、お疲れ様っ!」 パンパンと、手を叩いて、セバスは、周囲を見回すと、 「と、いうことで、たまたま、隣に座ったセビィーの肩に、ジャックの体があたってしまい、熱々の紅茶をフーフーしていたセビィの手に、ピチャッと紅茶がかかってしまった。それを見たジャックが、これは、失礼!大丈夫ですか!と、ハンカチを取り出しセビィの手を拭こうとしたところ、あら、どうか気になさらずに、いえ、私が、悪いのですから、と、謙遜しあい、言い合い、しているうちに、本当に、大丈夫ですわ!そうは、言っても!と、エスカレートする二人。お気になさらず、と、ジャックの動きを止めようとするセビィの、腕が、ジャックの顔に直撃し、きゃあああーー!と、セビィが挙げた悲鳴が、周囲の誤解をよんだ。で、真相解決!!二人は、はなから、何もありませーん!で、よろしいか?皆さん。これは、単なる、誤解。ささいな事故。良くある話じゃないですか。と、いうことなのです」 起こったであろう事を、セバスは、ひたすら湾曲し、朗々と語った。 「丸く収めたいのは分かるけどよ、じゃあ、セビィが、襲われたと騒いでいるのは、どう説明する?」 ジャックが、にやつきながら、セバスを見る。 「おや、挑発。構いませんよ、いくらでも!」 「ちょっと待って!だから!あたしは、襲われたなんて、言ってないわよ!おー、そのハンカチは!って、言ってただけなのに!だって、ジャックったら、オーギュスト商会のハンカチで、セビィの手を拭こうとしたのよ!あの、王室御用達、超高級ハンカチでよ!」 「……兄貴を庇うのは、わかるが、セビィ、無理有りすぎだろ」 ジャックが、ため息き交じりで、セビィを諭した。 「それじゃあ、お兄様に、余計な事、言わないでっ!」 「はいはい、わかりました。この場は、降参、それで、いいんでしょう?」 「ね、示談成立というより、始めから、何もなかったのです。では、カイル君、以上の調書、よろしく頼みますよ」 警官は、何がなんだかわからず、目を白黒させている。 「お見事ですねぇ!しかし、それでは、私共の仕事が……」 記者が残念そうに、言い渋る。 「どうぞ、お好きに。ゴシップ新聞なんですから」 「おやっ、セバスさん、辛辣!というか、物分かりよすぎるというか。そうだ、二頭馬車が盗まれてましたねぇ、その線で行きますか。では、私共どもは、これにて」 記者の言葉に、あーーー!と、マイクが叫ぶと、セバスに平謝りし始めた。  
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