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「セバスさん!すみません!馬車を馬事を盗まれてしまいました!セビィさんの戻りが遅かったので、覗きに行ったその隙に……」
「……馬が逃げ出したと、いうことですか?」
「いや、その、通りがかった知り合いの、御者に預けておいたら……」
「御者も、信用出来ない時代になったと、ああ、まったくもって。馬車がだめなら、何に乗れば良いのでしょう」
「セバスさん!弁償します!」
マイクは、今にも泣きそうになっていた。御屋敷の、しかも、自分の商売道具とも言える馬車を、まさかの御者仲間に盗まれたのだ。失態で、すませられる話ではない。何より、マイクは、仲間と思っていた男に裏切られたのが、悔しかった。所詮は、他所の家の者、家通しの対立が、ここに来て現れたのか、それとも、相手に問題があったのか。とにかく、見抜けぬかった事にも、腹が立っていた。
どうあれ、せめて、けじめ、をつけたかった。いずれ何処かで、あの御者と出会うだろう。その時、嫌みの一つどころか、マイク自身が、馬と馬車を新調したと、自慢してやりたかった。てめーの嫌がらせぐらい、どおってことねぇよ!と、啖呵を切りたかったのだ。
馬番ごときが、成せる事ではないと、分かっていたが、それでも、それが、マイクなりの意地だったのだ。
「弁償しなくても、相手が分かっているなら、マイク、取り返せば良いでしょう?」
「で、でも、どうやって?もう、流しているだろうし……仮に、あいつが支える家に、あったとして、そしたら、余計ややこしくなるだろうし……」
「おや、その言い様、まるで、執刀執事ではないですか」
マイクにセバスは、ふふんと、笑いかける。
「お前、また、何に企んでんだ?」
ジャックが、呆れていた。
「ほほー!すでに、その馴染み様!やはり、エドワードさんの目に狂いはなかった!仕方なく!ではなく、是非とも、ジャック・オ・ランタンを雇いたいですなぁ!」
「ねっ、お兄様、適任者だったでしょ?」
セバスとセビィは、うんうんと、頷き合う。
「あの、馬車を盗まれた……ようですが?被害届出されますか?」
そこへ、おどおどと、警官が、口を挟んでくる。
「あー、カイル君、仕事熱心は、良いことですが、これは、我が屋敷内の問題です。残念ながら、あなたの出る幕はありません。さっさと、セビィとジャックの偶然の出会いの調書にとりかかりなさい」
「はいっ!これは、失礼いたしました」
セバスの堂々たる姿勢に、警官は押されて、ビシッと、敬礼まで行った。
「屋敷内の問題なら、いつまでも、ここにいる必要ないだろ。それに、偶然の出会いで、なんで、ロープに縛られてる。いい加減、ほどけよ」
ジャックが、悪態をつく。
「あー、なんとなく、これ以上のことは掴めないようですので、我々は引き揚げますか」
記者が、やや、期待はずれといった顔つきで、カメラマンと頷きあうと、わーわー騒いでいるマイクに気をとられている一同に軽くお辞儀をして、ドアへ向かった。
が、記者は、何故かジャックの側で立ち止まり、そっと、耳打ちした。
「……余り派手に動かないでください。まだ、聖マルは終わってないんですから。書けなくなったら困ります。私、あちらの編集は、引き続き行いますので、よろしく頼みますよ。先生……」
記者の言葉に、ぎょっとするジャックがいる。
その面持ちを確かめると、記者は、意味深に口角を上げて、立ち去った。
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