三章 片傷のジャック「一」

6/6
前へ
/100ページ
次へ
「遅いなぁ」 「そおっスねぇー」 警察の前で待機している、ジェームズとロイドは、一抹の不安を感じていた。   セバスが、去って、小一時間は過ぎているだろう。薄闇と、距離がある事から、はっきりと見えないが、広場の大時計の針はしっかり動いている。 「まあ、セバスさんのことだから、どうとでもまとめるだろうけど……」 「やっぱり、片傷のジャックが……」 うーんと、ジェームズは唸る。 「あー!ジェームズさん!あれ!」 警察庁舎の玄関から、記者とカメラマンが出てきた。 「おや、あなた方は」 記者が気が付き、ジェームズ達に声をかけてくる。 「あの!中で、何か、あったんですか?なんだか、遅いので……」 「あった、ってほどでもないですが、そろそろ来られると思いますよ。ご安心を」 記者の言葉に、ジェームズとロイドは、ホッとした。 「あっ!そうだ!」 記者が、何か思い出したようで、言葉を続けた。 「そうそう!また、何かありましたら、私共にお声掛け頂けますか?やはり、新聞は、ネタが命ですからね。特に、あの、ジャック。彼は、実に胡散臭い。きっと、何か仕出かすでしょうなぁ」 「えっ!!そんな!」 「ジャックは、お嬢様付きの御者になるんっスよ!ジェームズさん!大丈夫なんっスかっ!」 「なんと!その様なことがっ!」 記者は、慌てて、手帳にメモをとる。   その姿に、ジェームズと、ロイドは、ほおー、と、見とれていた。自分達の知らない世界があるのだと、二人して、感動していたのだったが……、 「えーい!二人組!そんな言葉に、惑わされて!それが、記者の手口なんですよっ!ロイド家の裏事情を聞き出して、面白おかしく書き立てる!しかも、すでに、セビィが、やらかしてますからねぇ!これ以上、書かせてたまるかっ!」 夜の帳が降りる大広場に、酔っ払いが発するよりでかい、セバスの声が響き渡った。 「あ!セバスさん、セビィさんも!無事でしたか!マイク!大丈夫だったかっ!」 待ち人達にやっと会えたと、ジェームズは、弾けた。   つかつかと、セバスは、記者に近寄ると、あーた、それ、ガセですよ!と、訳のわからない忠告をする。 「はっ?」 意図が掴めず、記者も、困惑した。 「はい、皆さん、こちらは、今日から、私達の仲間になる、お嬢様付き執事のジャックです!」 「えっ!!」 と、それ以上言葉が出ないジェームズ。 「な、なんなんスか?」 と、理解出来ないロイド。 「ちょっと待った!俺が、アイリスの専属執事に?!」 と、慌てる、ジャック。 「…………」 慌てるジャックを、ただ、凝視する、セバス。 「なんで、お嬢様のこと、知ってるのおぉっ!」 驚きから固まっている、兄、セバスに変わり、更に驚く妹、セビィ。 「流石、情報屋。何でもごされですねぇ。なるほど、そーゆーやからが、お嬢様の専属執事ですか、こりゃーいいネタが手に入った!」 早速、記事におこさなければと、記者は、慌てふためき、カメラマンと駆け出して、闇に消えた。 「セバス!どうゆうつもりだ!」 ジャックは、セバスを責め立てようとするが、セバスは、お構い無しで、皆に向かって、一言。 「皆さん、取り乱してしまい失礼しました。ですが、すでに、お嬢様の情報を掴んでいる、まあ、誰れに売ろうとしていたのかは、知りませんけど、それぐらいの、こざかしさがある方が、他人の足を引っ張る事しか考えていない社交界では、役立つどころの騒ぎでは、ありません!よって、ジャックこそ、お嬢様の専属執事に相応しいのです!」 「だからって、セバスお前、何処の馬の骨かわからん男をだな!」 「そこは、おいおい、分かってくるでしょう、ジャックさん?マイク!まずは、馬車を盗まれた仕返しです!このジャックなら、それは、それは、ものすごい作戦を持っているはずですからっ!」 盗まれた馬車の仕返し、と、セバスから聞かされた馬番三人組の顔色が変わった。 そして、 「ジャックさん!これから、よろしくお願いしますっ!」 と、三人同時に頭を下げたのだった。  
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加