20人が本棚に入れています
本棚に追加
「遅いなぁ」
「そおっスねぇー」
警察の前で待機している、ジェームズとロイドは、一抹の不安を感じていた。
セバスが、去って、小一時間は過ぎているだろう。薄闇と、距離がある事から、はっきりと見えないが、広場の大時計の針はしっかり動いている。
「まあ、セバスさんのことだから、どうとでもまとめるだろうけど……」
「やっぱり、片傷のジャックが……」
うーんと、ジェームズは唸る。
「あー!ジェームズさん!あれ!」
警察庁舎の玄関から、記者とカメラマンが出てきた。
「おや、あなた方は」
記者が気が付き、ジェームズ達に声をかけてくる。
「あの!中で、何か、あったんですか?なんだか、遅いので……」
「あった、ってほどでもないですが、そろそろ来られると思いますよ。ご安心を」
記者の言葉に、ジェームズとロイドは、ホッとした。
「あっ!そうだ!」
記者が、何か思い出したようで、言葉を続けた。
「そうそう!また、何かありましたら、私共にお声掛け頂けますか?やはり、新聞は、ネタが命ですからね。特に、あの、ジャック。彼は、実に胡散臭い。きっと、何か仕出かすでしょうなぁ」
「えっ!!そんな!」
「ジャックは、お嬢様付きの御者になるんっスよ!ジェームズさん!大丈夫なんっスかっ!」
「なんと!その様なことがっ!」
記者は、慌てて、手帳にメモをとる。
その姿に、ジェームズと、ロイドは、ほおー、と、見とれていた。自分達の知らない世界があるのだと、二人して、感動していたのだったが……、
「えーい!二人組!そんな言葉に、惑わされて!それが、記者の手口なんですよっ!ロイド家の裏事情を聞き出して、面白おかしく書き立てる!しかも、すでに、セビィが、やらかしてますからねぇ!これ以上、書かせてたまるかっ!」
夜の帳が降りる大広場に、酔っ払いが発するよりでかい、セバスの声が響き渡った。
「あ!セバスさん、セビィさんも!無事でしたか!マイク!大丈夫だったかっ!」
待ち人達にやっと会えたと、ジェームズは、弾けた。
つかつかと、セバスは、記者に近寄ると、あーた、それ、ガセですよ!と、訳のわからない忠告をする。
「はっ?」
意図が掴めず、記者も、困惑した。
「はい、皆さん、こちらは、今日から、私達の仲間になる、お嬢様付き執事のジャックです!」
「えっ!!」
と、それ以上言葉が出ないジェームズ。
「な、なんなんスか?」
と、理解出来ないロイド。
「ちょっと待った!俺が、アイリスの専属執事に?!」
と、慌てる、ジャック。
「…………」
慌てるジャックを、ただ、凝視する、セバス。
「なんで、お嬢様のこと、知ってるのおぉっ!」
驚きから固まっている、兄、セバスに変わり、更に驚く妹、セビィ。
「流石、情報屋。何でもごされですねぇ。なるほど、そーゆーやからが、お嬢様の専属執事ですか、こりゃーいいネタが手に入った!」
早速、記事におこさなければと、記者は、慌てふためき、カメラマンと駆け出して、闇に消えた。
「セバス!どうゆうつもりだ!」
ジャックは、セバスを責め立てようとするが、セバスは、お構い無しで、皆に向かって、一言。
「皆さん、取り乱してしまい失礼しました。ですが、すでに、お嬢様の情報を掴んでいる、まあ、誰れに売ろうとしていたのかは、知りませんけど、それぐらいの、こざかしさがある方が、他人の足を引っ張る事しか考えていない社交界では、役立つどころの騒ぎでは、ありません!よって、ジャックこそ、お嬢様の専属執事に相応しいのです!」
「だからって、セバスお前、何処の馬の骨かわからん男をだな!」
「そこは、おいおい、分かってくるでしょう、ジャックさん?マイク!まずは、馬車を盗まれた仕返しです!このジャックなら、それは、それは、ものすごい作戦を持っているはずですからっ!」
盗まれた馬車の仕返し、と、セバスから聞かされた馬番三人組の顔色が変わった。
そして、
「ジャックさん!これから、よろしくお願いしますっ!」
と、三人同時に頭を下げたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!