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三章 片傷のジャック「二」
「まったく、兄妹揃って、よく動く口だ!」
呆れ返るジャックに、セバスは、折り目正しくお辞儀をすると、
「お褒め頂き光栄です」
と、のたまわる。
けっ、とことん嫌みな男だと、吐き捨てるように言い、ジャックは、渋い顔をした。
「あー、なんで、荷馬車なのー!」
「えっと、セビィさん、人数多いですし、まとめて乗っけられるかなぁと」
「セビィーヌさん、今日のところは、我慢してください!」
一張羅のドレスが汚れるだ、シワになるだと、セビィは、ひたすらごねている。それを、セビィーヌさん、ひとつ、ここは、セビィーヌさん、ですから、ここは、と、マイクが、異常に、よいしょ、どころかの、腰の低さを見せている。
「ジェームズさん、マイクの兄貴、どうしたんでしょう?」
「何か、弱みを握られているとか?いや?ロイド!良く聞け!」
御者台で、出発の合図を待つジェームズとロイドは、マイクの動きを、不審がっていたが……。
「セビィーヌ!!!!だって!!!」
と、叫んだ。
「おう!セビィーヌさんは、本当は、セビィーヌさんなんだっ!!」
「な、な、なんで!なんで!セビィーヌ!!!」
「セビィさんが、セビィーヌ!!!」
「そうなんだ!ジェームズさんに、ロイド!セビィーヌ、セビィーヌ、セビィーヌ、なんだよっ!!!」
馬番三人組は、騒然となる。くどいが、この国の男であれば、セビィーヌと聞いて、興奮しない者はいない。
即、あの、超男性向け月刊誌の事を思い浮かべるからだ。
ついでに、繋いでいる馬までも、嘶き、足踏み、暴れかけた。
「おや、馬まで、雄でしたか」
何を思ってか、とぼけたことを言うセバスに、
「馬鹿か!手綱緩めてんだか、引っ張りすぎてんだか、捌きが、めちゃめちゃなんだよっ!しっかり、しろっ!暴走するぞっ!」
たまりかねたように、ジャックが叱咤した。
「まあ、ジャックったら、既に、敏腕執事の姿を披露してる!お兄様、これから、油断できないわね!」
「な、なにをおっしゃいますことやら、そもそもですね、お兄様は、筆頭執事、皆の、上に立つ者なのですよ!部下が、腕を上げたのなら、喜ばしいことではないですか」
はははは!と、笑って、喜びを表すセバスであったが、妹の鋭い突っ込みを受けて、その瞳の奥では、何かが、めらめらと燃えていた。
「あー!もう、いいから、早く、馬車に乗せろっ!それより、この、ロープ、なんとかしろよ!」
ジャックは、一行の、馬鹿馬鹿しさに、溜まりかね、叫んだ。
「あら?ジャック、どうして、ロープが?」
「セビィ!お前が、このムチムチ、がたいに、言い付けたんだろうがっ!」
「ジャックさん、セビィーヌさんは、悪くないですよ」
「そうですよ、ジャックさんが、悪いんでしょ?」
「そうっス、セビィーヌさんを襲ったら、縛られるに決まってるっス」
ふふん、と、セビィは、してやったりとばかりに、鼻で笑うと、ジャックを見る。
「なあ、ちょっといいか、セバス。お前、いつも、こいつらに、付き合ってんのか?」
「はい、こいつらと、付き合っておりますよ。おや、どうやら、私の苦労が、分かる同志が、現れたようで、これは、心強い!」
ああ、と、ジャックは、諦めだか、失望だか、なんだかわからない、混沌とした気分に陥り、首をふる。
「……もう、ロープも、いいから、デカイの、馬車に乗せてくれ……、ここまで、縛られていたら、動きがとれん」
えーーー!と、セビィが、また、声をあげた。
「やっぱり、荷馬車で帰るのおーーー!」
「うっせぇなあ、セビィ、嫌なら、辻馬車拾って帰りな!」
「おお!さすが、お嬢様付き専属執事!見事な采配!セビィ、お兄様と、一緒に辻馬車で帰りましょう」
はぁ?と、ぐずりかける、妹を、セバスは、引きずりながら、では、ご機嫌よう!などと、意気揚々とその場を離れたのだった。
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