三章 片傷のジャック「二」

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「ちょっと!お兄様ったら!」 「静かにしなさい、セビィ!」 どうにか、拾った辻馬車の中でも、セビィは、ぐずぐずと愚痴りモードの手前だった。 全部、てめぇーのせいだろうがっ!超過勤務時間をどうしてくれるっ!!と、怒鳴りたいのを、必死に抑え込むセバスであったが、そうしてまでも、妹、セビィと、二人きりにならなければならない理由があった。 「なあ、セビィ、お前、どうして、ジャックに目をつけたんだ?」 「どうしてって、ジャックには、勝てないからよ!」 「そりゃあ、お前じゃあ、まだまだ、無理だろう。向こうは、海千山千、腹黒さも、性悪さも、私達の百倍以上は、あるだろうから……」 「じゃなくって!どうやっても、どんなイカサマの手を使っても、ジョンには、ポーカーで、勝てないの!ひとつ、屋根の下なら、きっと、あいつの持つ、秘策が盗めるはず!」 盗むも、何も、イカサマの手口って。そんな理由かよ、セビィ!   突っ込み所満載の理由を聞き、セバスは、狭い馬車内でズッコケそうになっていた。   仮にも、今や、社交界で敏腕執事とメイドとして、名前の通った、セバスとセビィ兄妹(きょうだい)。ここからが、真骨頂とばかりに、張り切ってお嬢様を手なずけて、栄華のオマケを頂きましょう!と、誓いあったはずなのに。賭けポーカーの秘策を盗みとる事を優先するとは……。 「お兄様、何、呆れてるの!ばか正直に、メイドなんてやってたら、こんなドレスは、手にはいらないわ!」 「お前、ドレスの為か!」 「それもあるけど、あのね、賭けポーカーは、思わぬ人脈が作れるんだから!」 ──人脈。確かに、あちこちの下々の者を、セビィは、掌握していた。 「お兄様は、上だけを見て、有閑マダム達を、たらしこんでちょうだい!」 はい。と、セビィの勢いに負けて、セバスは、返事をしていた。 「でも、貴族社交界を牛耳るには、暇な、マダムだけのお相手じゃあ、駄目だって、気づいたの」 「どういうことだ?セビィ」 いつもと異なる、妹の勢いに、セバスは真顔になっていた。社交界を牛耳る為に、今以上の事をしなければならないと言うセビィも、また、表情が固かった。 「お嬢様を使って……、では、無理なのか?セビィ?」 兄の問いに、うん、と、残念そうに、セビィは、答える。 「お兄様、良く考えて!結局のところ、社交界、いえ、貴族社会、ううん、この世の中を動かしているのは、一握りの、男達」 確かにそうだ。国政にしても、外交にしても、とにかく、動かしているのは、最高権力をもつ、国王、ではなく、その取り巻きともいえる、ズル賢い、高貴な身分の者達だった。 「そこへ、入り込むには、奥方経由って、今までの方法も、無論、大切だと思うんだけどね、あちこち、出入りしてて、私思ったのよ、女達は、自由に振る舞っているように見えるけど、最後には、店の親方に、なんやかや、稼ぎから引かれてしまう。つまり、女じゃ、限界があるのよ!」 いや、それは、商いで、殿方を癒して差し上げている女性達の話しであって、と、言うより、何故に、妹は、そんな所にまで、出入りしているのだろう。 「だから!」 セビィの勢いは、止まらない。 「お兄様なのよ!お兄様が、高貴で上位の男達を、たらしこむの!」 「ああ、なるほど、そういうことですか、そんなことなら、って、できますかっ!!」 この兄に、たらし専門、しかも、BL的なっ?ブロマンス的なっ?って、綺麗事ではなく、つまり、 年寄りの、男色家を相手にしろってことでしょ?端的な話。 この歳になって、そんな、エログロな事できますかっ! やはり、妹とはいえ、セビィ、侮れない女だ。と、セバスが、懸念している間も、セビィは、私、色々出入りしてて、思ったんだけどね、と、独自の理論を展開してくれていた。 「そこでだね、ジャックを使えば、と、思うんだが」 セバスが、セビィを遮る様に言うと、えー!ジャックって、そっち系?!と、色めいていた。   あのなぁ、いい加減、頭切り替えなさいよ、と、セバスは思う。
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