三章 片傷のジャック「二」

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「うん、大きな意味で、そっち系かもしれないな、やつは」 仕方なし、セビィを黙らせようと、セバスは、あえて意味深に言ってみたが、まさか、思いの外、セビィは、ひっかかり、えっっっ!!と、顔をひきつらせていた。 一体、どんな想像をしているのかは、わからないが、そろそろ本題に入らなければ、お屋敷に到着してしまう。 「いや、実はなあ、セビィ」 「いやぁーー!聞きたくない!まさか、お兄様と、ジャックがっっ!」 両手を耳に当て、セビィは、聞く耳持たずの、ショック状態だった。 「あのね、どこまでのことを、お前は、考えているのか知らないが、ほんと、そろそろ、本題に入らせてくれ!これを、見なさい!」 セバスは、胸ポケットから、手帳を取り出すと、ペラペラめくり、セビィに示した。 「セビィ、ジャックという男、とんでもない出目かもしれないぞ」 「は?確かに、どこの馬の骨か、わからないけど?」 「まあまあ、これを見なさい。敏腕執事御用達、季刊執事の友、新年特別号付録、世界の貴族達だ!それで、と、ほら、ここ……」 セバスは、あらゆる貴族情報が掲載されているという、ポケット式の、いわゆる、貴族年鑑を、セビィに見せた。 うっかり、地味な貴族と、社交の場で出会ってしまった場合、名前が、わからない。はたまた、名前を知らない。そんな時、この、付録が役に立つのだと、セビィに力説しながら、仕様を説明するセバス。 国ごと、勢力、血筋ごとに、並べられた、貴族の名前と、顔写真。 何代目であるか、何かしら、政治の役職についているか、荘園の規模など、事細かに記載されている。 無論、ロイド家の事も載せられているが、そこは、さておき、 「問題は、ここだ」 と、とある一頁を開き、指差していた。 「あら?なんだか、情報薄って感じ」 「そうなんだ、よく見てごらん、この頁は、シュレーデン王国の項目」 「え?あの国とは、正式な国交が成立してないんじゃなかった?」 「そう、しかも、物流含め、交流も、限られているというか、我が国とは、ほとんど、関わりがない国だから、どうしても、内部事情が、掴めない。誰でも知っている、超公式、ありきたり情報しか、掲載されていないのだが……」 言って、セバスは、頁の一部を指先で、トントンと、差した。 「ここ、ここが、ひっかかっていてねぇ」 現国王の顔写真と、略歴、そして、その下段には、大臣などを排出している、主なる摂政家の紹介が──。 「あ、れ?」 「うん」 セビィは、セバスを見る。 「嘘でしょ?」 「嘘は、ない!何しろ、発行元は、季刊執事の友、だからな」 「じゃあ……どうゆうこと?」 「それは、わからないが……他人の、そら似ということもありえるし……」 「サンルーランド卿って……書いてあるわよね」 セビィの訝しげな眼差しに、セバスも、同様な視線を、季刊執事の友、新年特別号付録、世界の貴族達に落とした。 「国交がないから、顔写真も、肖像画だったり、何もなかったりするけれど、このサンルーランド卿に至っては、上手い具合に、写真つき。正し、極小だけれど」 「お兄様、極小で、見にくいけど、これ、これって!!!」 「そう、どう見ても、ジャック、なんだよ」  
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