三章 片傷のジャック「二」

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「セビィ、お前が、愛人になろうと、正妻になろうと、それで、満足するなら、お兄様に、文句はない」 どうだ、出来た兄だろうがと、言いたげに、自信満々の顔をセビィに向けつつ、セバスは、つと、眉をしかめた。 「だがね、考えてごらん?なぜ、ジャックは、この国にいるんだ?この情報から、読み取れるところ、記載されているのは、ジャックの、父上か、とにかく、上の世代だろう。で、よくよく子細を見るとだ、国王の信認厚く、どころか、血縁筋にあたる家柄なんだよ!」 「えっ!やだー!王妃になれる可能性が、出てきたわけ?ジャックを足掛りに、国王へって、なかなか、骨が折れそうね」 いや、だからね、お前……。 セバスは、セビィの暴走を止められない。 「だ、か、ら、セビィ、良く聞きなさい!あのね、国交のない国の人間が、ここで、情報屋なんかやっているんだよ?!しかも、お嬢様の名前まで、知っていた!」 「……そうだったわ。ジャックは、敏腕情報屋、そのくせ、誰に媚びることなくの、一匹狼だし」 「別に、情報を、売らなくても、いいとしたら?」 「お兄様、それって……」 ぽつりと、洩らしたセビィの言葉に、セバスは、うん、と、頷いた。 「情報屋は、情報屋だけど、自国へ、情報を流しているとしたら?」 「つまり、スパイって、こと?」 「なきにしもあらず」 一気に、沈黙が訪れる。 「やだ、あたし、ボコッちゃたわ!これ、絶対、消されるっっっ!!!」 やっぱりか!お前が、一人、大立ち回りしただけの話かよっ!全く、一度、消される思いをしてみなっ!で、お兄様ー!なんて、泣きついてきても、超過勤務は、ごめんだぞっ! と、心の中の叫びを誤魔化しつつ、セバスは、セビィに言った。 「だがねぇ、エドワードさんのお墨付き、なんだよ。つまり、ジャックと、面識があるってことで、やはり、何処の、馬の骨だかわからないって、出目ではないって、ことだ」 「え?ここに来て、エドワードさんって!!お兄様、エドワードさんも、グルってこと?!」 「あー!そこは、考えてなかった!エドワードさんも、スパイの一味だったとわっ!」 「お兄様、落ち着いて!これは、あくまでも、憶測の範囲」 何故か、形勢逆転してしまっている事に、気付いていないセバスは、 「セビィ、どうすれば!!」 と、妹を頼っていた。 「そうねぇ、ひょっとして、ジャックは、単に、放蕩息子って事もありえるんじゃない?」 「なっ!それは、ありえるかも!うかつだった!」 セビィの指摘に、セバスは、はっとする。 何処の家にも、一人や二人、どうしようもない子供がいるもので、ましてや、これ程の身分ある家なら、恥さらしとばかりに、家から、追い出されるもの。 そう考えると……、なんとなく、辻褄が会うような気もする。 しかしながら、できの悪い子供ほど、可愛いもので、追い出してみたものの、ついつい、ぶつくさ言いながら、支援してしまうのが、親心。 国内で、プラプラされては、まずいと、ばかり、国交のない、この国へ、わざと追いやり、放置するが、所詮、良いところ過ぎる家の坊っちゃん。結局、実家から、支援してもらっているのではなかろうか。 女に、子供ができたとか、手を出した女の後ろには、とてつもないモノが、控えていたとか、そうゆう、適度な醜聞を理由に、ジャックも、家に、たかっている。 そう、考えれば、あの、のらりくらりとした、暮らしぶりも納得できる。 「そうだな、セビィ、その線が実に濃いかもしれない」 「でしょ?」 酒場に入り浸ってる男が、スパイだなんて、あるわけないかっ! と、セバス、セビィ兄妹(きょうだい)は、大笑いした。
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