三章 片傷のジャック「二」

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「うっせーよ!何が、化け物だっ!」 「おや、ジャック、仲間にそんな口を利くなんて、しかも、レディにむかって」 うわぁっっ、と、ここぞとばかりに、メイドのルーシーは、泣き出した。 「ほらご覧なさい」 「んーなもん、嘘泣きに決まってるだろ?セバス、お前だって、わかっているくせに」 「わかっていても、わからない振りをするのが、敏腕執事です。ともかくも、ジョン、あなた、一体、何をしていたのですか?!」 「……卵集め」 はあ?と、集まっている者達の頭の中は、混乱していた。   てっきり、鶏が、逃げ出したかと思ったら、メイドは、叫んで、泣いている。そして、前には、奇っ怪な男がいて、皆、男から、目が離せなかった。 「セバスさん、この男は……」 コック長が、おろおろしながらセバスに問った。   鶏が、逃げた訳ではない、そして、卵を集めてくれていると言う、奇特な男がいるのではあるが、何故か、奇妙な、面持ちをしている。   そう、腫れあがったような顔をして、所々、赤い斑点があり、決して、普通ではなく、ルーシーが、化け物と騒ぎ、ギャーーー!と、叫びたくなるものだった。 「おや、誰かと思えば、ジャック」 「エドワードさんまで、お知り合いで?」 再び、コック長は、動揺した。 前にいる、男は、何者なのだろうかと。 「あーーー、ったく、鶏には、つっつかれるし、蚊は、ブンブンたかってくるし、散々だった」 ジャックが、ごちる。 「セバス?」 「はい、エドワードさん、どういうことでしょうねぇ?」 「馬番三人組に、聞けよ!何が、楽しくて、鶏小屋で一晩明かさなきゃなんねーのか!で、つい、卵なんぞ、集めてるわ、俺も、焼きが回っちまった、まったく」 「と、いうことは、ジャック、あなた、鶏小屋で、寝起きしていると?!」 「寝起きしている、じゃなくて、させられたんだっ!」 どうして、そんなことにと、セバスと、エドワードは、半分、笑いを堪えながら、顔を見合せた。 「とにかく、卵、渡しとく。邪魔でしょうがない」 確かに、籠に、こんもり盛られた産みたて卵を、ずっと持っているのも、邪魔と言えば、邪魔な話しだ。 「あー、それで、蚊と鶏にやられて、そんな顔に……」 夜半の出来事を知らない、エドワードが、勘違いしつつ、ジャックに言った。 「良い薬をもっている人を知っているから、ジャック、私と、一緒に……」 「エドワードさん?医者、ではなく、民間療法で?」 「ああ、医者じゃあ、元の顔に戻るまで、時間が、かかるだろ?それまでの間、メイド達が、ギャーギャーと、化け物が出たと騒いでは、たまったもんじゃないからねぇ。知り合いの所なら、あっという間さ」 「あの、エドワードさん」  再びコック長が、おどおどと、声をかける。 「あー、そうか、セバス、皆に紹介した方が……」 「そうですね、うっかりしておりましたが、あの見かけでは、皆も、動揺するだけかも……。しかし、新しい、使用人、と、ぐらいは、言っておかねばならないですよねぇ」 「そうだよねぇ、その方がいい」 うんうんと、納得している、エドワードと、セバスに、ジャックは、キレた。 「あのな、あんたら、紹介したいのか、したくないのか、はっきりしろよ。別に、俺は、出ていってもいいんだぜ!」 「おや、すねちゃいましたよ?エドワードさん」 「ちょっと、子供っぽい所が、あるんどけどねぇ、そこは、セバス、君なら、どうにかできるだろ?」 二人の会話に、コック長含め、集まった者達は、怪訝な顔をしていた。   新しい、使用人、とは?   まさか、専属鶏小屋番、などという、効率の悪い役目で、雇うというのだろうか?   皆の、様子に気がついたセバスは、 「ああ、申し訳ない。こちらは、新しい、執事、私の右腕として働いてもらう、ジャック・オ・ランタンさん。妙な、手違いから、一晩、鶏と、共に過ごしたらしく、蚊と、鶏の、せいで、顔が無惨なことになっておりますが、通常は、至って普通ですから、皆さん、ご安心を」 と、セバスは、皆に、ジャックを紹介した。 「セバス、えらく、事実と、違うが?」 「まあまあ、ジャック、朝から、卵収集ありがとうございました。まだ、配置も決めていないのに、この、気遣い。どうです?なかなかの男でしょう?皆さん?」 なんだか、よくわからないが、言われて、拒む理由もなく、 「よろしく、新しい執事の、ジャック・オ・ランタンさん」 と、挨拶をする一同に、 「あー、ジャックで、いいから」 と、これまた、しおらしく返事する、ジャックだった。 「ね、使える男だと言ったでしょ?」 エドワードが、えらくご機嫌な顔を、セバスに向けた。
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