1人が本棚に入れています
本棚に追加
男は背が高く、体格も非常に恵まれている。唯一の欠点は、頭頂部が薄いことだ。
「ゼロ・・・。いつからここに?」
「もう・・・、かれこれ3時間は経つかな・・・。通報があって、ここに駆けつけてから、君をベッドに戻して、しばらく近所を見回りしていた。まぁ、怪しい人物はいなかった・・・、けど・・・」
ゼロと呼ばれた男は、実咲の表情が冴えない事に気が付くと、言葉途中で話をやめた。
「おめでとう・・・、で始まった。私たちには何度聞いても、イやな言葉だった。おめでとうを聞く。次は誰が、誰を失うのか・・・。それが怖かった」
「組織の中での事だ・・・。今は違う・・・」
「違わない!おめでとう!おめでとう・・・。その言葉は仲間を裏切ったり、仲間を失ったりした代償で得る言葉。その言葉を掛ける大人たちはみんな、冷ややかで感情もなく、常に冷たかった・・・。私は、おめでとうという言葉が嫌いだ!」
ゼロは首をガクンと落とすと、ゆっくりと持ち上げながら遠くを見る目で話し始めた。
「それは、組織の奴らの使い方が間違っているんだ。本来、おめでとうとは頑張った者に対して掛ける言葉。もしくは、何かの記念日にかける言葉。そして、その言葉には温かい愛情が込められている。君の知っている言葉とは違う物だよ」
実咲はゼロの後姿を見つめる。
「私には・・・、おめでとうは辛い言葉だ!」
実咲はゼロの背中に向けて言った。
「なら、これからは俺が『おめでとう』という言葉の本当の使い方と意味、そして温かさを教えてやるよ!」
ゼロが振り向いた。
その目はとても優しく、温かさを実咲は感じた。
最初のコメントを投稿しよう!