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「結婚、それに妊娠おめでとう」
言葉にした瞬間、世界がガラスのように弾け壊れたように思えた。
彼女との思い出が走馬灯のように脳内を駆け巡る。
初めてのデートや、初めての喧嘩、初めて一緒に夜を過ごしたこと、楽しいこと嬉しいこと悲しいこと腹立たしいこと、すべての思い出が通り過ぎる。
彼女が大阪に引っ越し遠距離となってしまってからは、喧嘩ばかりが増えていた。
そんな険悪な状態が続くようになったら、彼女に別の好きな人ができたと別れ話を切り出されるまでさほど時間はかからなかった。
どうすることもできなかった。
物理的にも精神的にも距離ができてしまっては身を引くほかなかったのだ。
時間がある程度癒してくれたと思っていた。
出産のために帰省した彼女と会っても平常心を保てていたと思っていた。
だけど、本当は現実から目を背けていただけだと分かった。
彼女を幸せにするために別れるしかできなかったことがどんなに不甲斐なくても、彼女を幸せにしたのが自分じゃなかったことがどんなに悔しくても、僕が彼女を幸せにするためにはそうする他なかったのだ。
「望くん、ありがとう」
横を向いて僕の胸に耳をあてた彼女はゆっくりとそう言って、僕の背中に腕を回した。
彼女の温もりが僕を包み込む。
「未来、大好きだよ。だから旦那さんと幸せになってね」
どんなにツラくともこれが、僕が彼女を幸せにするための覚悟なのだ。
見上げた先にそびえ立つランドマークタワーはあの時と変わらず煌々と輝いていたのだった。
~おわり~
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