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奇怪な想いで
蘇る想いでは、幼稚園児の頃の事だった。
電車は、遠い遠い空間へと進んでいた。
車内は多くのお客さんで賑わっていた筈なのに、蘇る映像は何時も、母ちゃんと幼い百合ちゃんと僕の三人だけの空間だった。
大きな車窓から眩いばかりの光の世界が流れている。
通路側に座る母ちゃんが静かに本を読んでいる。
母ちゃんから繋がる座席に立つ白いドレス姿の幼い百合ちゃんと、白いシャツ姿の幼い僕は対面座席を飛び跳ねている。
列車の車窓から流れる風景を、二人並んで眺めては、風景が移り変わるたびに二人は抱き合う様に燥いでいた。
断片的に浮かんで来る思い出は神奈川県の江の島で、水族館の水槽を覗き込む母ちゃんと百合ちゃんと僕の姿だったり。
湘南海岸の波打ち際を海風に煽られ、お揃いで被る麦わら帽子が飛ばされないように手で押さえて歩く、三人の滑稽な姿だったり。
伊豆の海を走る遊覧船の上で、飛び交う鳥と戯れる三人の楽しそうな姿だった、風景では無い。
僕が今でも心時めき切ないほどの郷愁が押し寄せる風景は、ずっとずっと遠くの小さな砂浜で静かな波が打ち寄せる、三人だけの空間だった。
不思議で奇怪な風景だった。
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